変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、6月29日発売)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。本連載では、そのために必要なマインド・スキル・働き方について、同書の中から抜粋してお届けする。
スキルは、アートとサイエンス、クラフトに分かれる
カナダのマギル大学デソーテル経営大学院のヘンリー・ミンツバーグ教授は、ビジネスにおけるスキルをアート、サイエンスとクラフトの3つに分けて解説しています。
アートとは言葉のとおりセンスのようなもので、直感や感覚などを指します。動物的な嗅覚で新たなビジネスチャンスを見出す人はアート面に長けていると言えるでしょう。
ビジネススクールの科目では、戦略やリーダーシップなどはアートの要素が強いと考えられています。
サイエンスは再現性のあるもので、「Aを入力したらBになる」という方程式に落とし込めるものになります。会計や財務などの科目は、サイエンスの要素が強いのではないでしょうか。
クラフトは実務で身につけられるものが多く、業界や会社に固有のものも含まれます。強いて当てはめると、オペレーションのような実務寄りの科目がクラフトに当たります。
どのスキルが特に優れているということはなく、ビジネスを成功させるためにはアート、サイエンス、クラフトのいずれかに偏重するのではなく、全ての要素を意識して身につける必要があります。
なぜならば、下図に示したように、事業の局面によって必要とされるスキルは異なるからです。
例えば、事業の立ち上げ期には壮大なビジョンを描くアートが強く求められます。
次に事業が軌道に乗って成熟してきたら、安定して運営するためのクラフトが求められます。そして、事業が衰退期に入ってきた際には、事実にもとづいて冷徹に意思決定をするためのサイエンスが重要になります。
また、人が一人でできることには限界がありますので、個人で身につけられないスキルはパートナーと補い合うことも必要です。
朝の掃除でアート思考を身につける
アマゾンの共同創設者ジェフ・ベゾス氏は、「一日に3つの良い意思決定ができれば十分」と言っています。
逆に言えば、それは3つの集中すべきことを意識的に選ばなければならないということです。チャンスが来たときに多くの人はそれを見逃してしまいますが、アート思考に長けている成功者はそれを見逃しません。ここではアート思考を鍛えるためのエクササイズを1つ紹介します。
これは、10年以上前に私が支援先企業の社長に就任した際に、税務アドバイザーを依頼していた税理士事務所の所長からもらったアドバイスです。
それは、「できる経営者になりたければ、朝に社長自らが会社の掃除をする」というものです。
そうすることで、社内の小さな変化にも敏感になることができ、結果としてチャンスやピンチを見極めることができるようになると言われました。また、多くの経営者がそのアドバイスを受け実際に行動に移すことで、チャンスをものにして成功を手にしてきたとのことでした。
私は、そのアドバイスに従い、毎週月曜日の朝にオフィスの掃除をするようにしました。全員の机をキレイに拭くことが習慣化されると、
●普段机をキレイに使っている社員の机が汚れている
●椅子の位置がいつもと違っている
など、細かい変化に対して敏感になっている自分に気づきました。
神経が研ぎ澄まされると、何かが起きる前兆を察知し、事前に打ち手を講じられるようになります。このエクササイズを始めてからは、社内の事象のみならず、世の中の多くの変化に対しても敏感になりました。
日々のエクササイズでアート思考を磨き、他者との差別化を図っていきましょう。
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。
2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。
現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
IGPIグループを日本発のグローバルファームにすることが人生の目標。
細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。
『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。