NPSはどのように
財務指標と関わるか

――財務データや株価との関連についてお尋ねします。ご著書には、NPSが高い企業は、高い株主総利回り(TSR)を記録している。NPSと株価に相関関係があると書かれています。

ネット・プロモーター・システム(NPS)で「顧客愛」というパーパスを実現する『「顧客愛」というパーパス<NPS3.0>』、フレッド・ライクヘルド、ダーシー・ダーネル、モーリーン・バーンズ (著)、大越一樹+髙木啓晃 (監訳・解説)、 鈴木立哉 (訳)、プレジデント社

 2013年に出版した『ネット・プロモーター経営――顧客ロイヤルティ指標NPSで「利益ある成長」を実現する』では、NPSを適切に活用している企業を10年間追跡し、継続的に株主還元できているか、TSRを調査しました。

 顧客中心主義を貫く企業が株式市場で業界平均を上回るパフォーマンスを出しているかどうかを見ると、4分の3が上回っていることがわかりました。

 個々の企業のNPSと株主総利回りはそれまでにも開示していましたが、詳細の公表はこれが初めてで、いくつかの模範的な企業を総体として比較対照したのも初めてでした。

 顧客中心主義はコストがかかり、ROIが下がる、投資効率が悪いと思われているなかで、顧客中心主義である企業が株式市場でも一般的な業界のリターンを上回る結果を出しているということを明確に示せたと思います。

――今、非財務指標と財務指標をいかに関連させられるかが多くの企業の課題になっています。NPSをGAAP(米国の会計基準)に入れようとする動きはあるのでしょうか。

 ある指標が会計基準に採用されるまでには、非常に時間がかかるものです。過去数十年にわたって実績がある、確固たる財務指標でさえ、監査を経て正当性や適切性が評価されるのには時間がかかりました。非財務指標ならなおさら時間がかかると思います。

 現状、非財務指標として会計基準のなかで確立されつつあるものとしてESG(環境・社会・企業統治)関連がありますが、EGRのような革新的なアイデアはまだ評価の途上にあります。NPSプリズムが算出したNPSが、最終的な財務業績をも左右することが会計基準のなかで証明されるには、まだ少し時間がかかります。それでも、方法論が確立された信頼に足る指標であると自負しています。

――実証研究が進むなかで、会計指標として認められ、使われていくのだろうと思いますが、そのような動きはありますか。また、フォーチュン500の企業のうちで、何社が公式なアニュアルレポートで使っているところか、などのデータはありますか。

 具体的な数字はありませんが、もっとも革新的な投資家である、PE(プライベート・エクイティ)やヘッジファンドはNPSに強い関心を示し、投資の際のデューデリジェンスの資料として参照しています。私も個人的に投資する際に、必ずNPSスコアを見て、投資先が顧客中心主義であるかを評価しています。

 多くの先進的な企業でも、財務指標のひとつとしてNPSを勘案しています。賢明な投資家が重視していることは間違いありません。EGRはNPSが財務の指標にも結びついていることを示すものであり、NPS、すなわち顧客愛(あるいは顧客中心主義)と財務指標の橋渡しになると考えています。