2023年に米南部の国境を越えて米国に不法入国した中国人は3万7000人以上と、前年の約10倍にも膨れ上がった。海を越え、密林を抜けて米国を目指す密入国ルートは、失敗した人たちの遺体が転がる中を進む、文字通り命がけの旅だという。一方では北朝鮮を逃れてきた脱北者を中国政府が強制送還したことも問題になっている。(ジャーナリスト 小野原遼成)
中南米から米国へ
不法入国する中国人が急増中
中南米から米国入りする不法移民の存在は古くから知られているが、ここ数年で中国人の越境が急増している。
成功者がSNSで発信した情報を手掛かりに、1万km以上離れた米南部の国境への片道切符の旅路につく人が続出。政治・宗教的迫害からの亡命目的のケースもあるが、新型コロナウイルス禍での問答無用のロックダウンを契機に中国脱出を決心した事例も多い。
国内総生産(GDP)世界2位の中国だが、依然として経済的理由から米国を目指す人が多く、米国の支援者は「彼らにとって米国は今も『ゴールデン・カントリー(金の国)なんだ』」と明かす。米中関係が悪化し、米大統領選も近付く中、足元での中国人移民問題に大きな注目が集まっている。
一方では、コロナ禍の終息を受け、中国が北朝鮮から逃れてきた脱北者を600人も強制送還したことで批判を浴びている。脱北者を描いた韓国映画や米ドキュメンタリーが最近ヒットし、北東アジアでの国境を越えたストーリーが世界的関心を呼んでいる事情もある。
中国政府の「抑圧」を逃れ
密林地帯100キロを踏破、米国へ
2023年に米南部の国境を越えて米国に不法入国した中国人は、国境警備当局が確認しただけで3万7000人を超えた。2022年は約3800人だったから、10倍近くに急増している。国籍別では南米コロンビアに次いで2番目に多い。
急増の背景には、新型コロナの感染拡大や米中関係悪化に伴い、米国が中国人に対するビザ発給を制限していることが挙げられる。米メディアによると、2016年には220万の短期滞在ビザが中国人に発給されたが、2022年には16万に激減。このため、正規ルートで直接、米国に渡航できない人たちが目指すようになったのが、南米から陸路で米国を目指すルートだ。“先駆者”たちがTikTokに投稿した動画を研究し、密入国あっせん業者に金を支払って移動の手引きを受ける。