中外製薬は初の売上高1兆円超え間近も、心配な「武田薬品」との奇妙な類似性Photo:Diamond
*本記事は医薬経済ONLINEからの転載です。

 古くより、危機は常に好調の内に芽生え、多くの投資家が褒め称えた時にはすでに頭をもたげている、と言われる。この警句が今、最も当て嵌る国内医薬品メーカーと言えば、やはり中外製薬をおいてほかにはないだろう。22年12月期決算は、売上高が同社初の1兆円超えとなる1兆1500億円を予想、コア営業利益は4400億円に膨らむとしており、無事に達成すれば6期連続の増収増益となる。薬価が毎年引き下げられる環境下にもかかわらず、中外だけは別の世界線に立脚しているかのようである。

 だがそれは、空想が入り込む余地のないリアルな姿だ。同社は、日本政府への納入という神風が吹いた新型コロナ治療薬「ロナプリーブ」を除いても、瀰漫性大細胞型B細胞リンパ腫治療薬「ポライビー」、視神経脊髄炎スペクトラム障害治療薬「エンスプリング」、脊髄性筋萎縮症治療薬「エブリスディ」といった新製品の伸長に加え、主力の血友病A治療薬「ヘムライブラ」の続伸もあって、国内製品売上げは前年比24.6%増の6463億円になると弾いている。

 スイス・ロシュを通じた自社創製品の海外販売も総じて好調であり、ロイヤリティを加味した22年12月期の海外売上高は5.5%増の5037億円を見込む。同社が今なお純粋な民族資本の企業であれば、配当というかたちでロシュへ毎年流れている決して少なくない額の「国富」が還流することも含めて、留飲を下げる愛国的業界関係者もきっと多いことだろう。

 直近のイベントで、マーケット関係者が注目するのはやはり22年12月期決算で開示されるであろう23年12月期の収益見通しだ。変動要因の最右翼であるロナプリーブがどうなるか。ひと昔前に、インフルエンザ治療薬「タミフル」が見せたのと同じく、この米リジェネロン由来の新型コロナウイルス感染症治療薬の動向も基本的には“ウイルス次第”だ。どれだけ予測精度を高められるか、予算担当者の腕の見せ所となっている。

 ただし、である。タミフルの出荷量に経営も市場も一喜一憂した当時の中外と、今の中外とは、社名は同じでも実質的にはほぼ別物と捉えるのが正しい。新薬が会社そのものを一変させるという事例は、たった1剤の抗腫瘍薬「オプジーボ」によって枯れ果てた大阪道修町の老舗が世界と伍する会社へと変わった小野薬品を挙げるまでもなく、業界の「定理」ではある。だがその定理を踏まえても、中外ほどメタモルフォーゼした企業は近年ない。

 仮にロナプリーブが来年、特例承認薬としての役割を終えようとも、去る5月に上市した加齢黄斑変性治療薬「バビースモ」が国内製品売上げの枠組みのなかではリリーフ投手のように代替する。中期的には、アトピー性皮膚炎治療薬「ネモリズマブ」(一般名)や、発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬「クロバリマブ」(同)といった大型化を見込む自社創製新薬がカバーするという見通しだ。