がん領域製品で国内No.1のシェア(2021年)を有し、医療用医薬品に特化した中外製薬。世界有数の製薬企業であるスイスのロシュ社が59.9%の株式を保有するが、東証の上場を維持し、自主独立経営を行っている。同社ではかねてより「人財」を意識したマネジメントに取り組んでおり、OpenWorkが実施した『社員が選ぶ「働きがいのある企業ランキング2022」』では、2位にランクインした。その取り組みを聞いた。(取材・文/ライター 奥田由意)
人材ではなく「人財」と
10年以上前から言い続ける理由
中外製薬は1925年創業。がん領域製品でトップシェアを持ち、30年以上前からバイオ医薬品を手がけ、2005年に国産初の抗体医薬品を創製するなど、技術力を強みにしてきた。2002年からは、ロシュ社との戦略的提携を開始。ロシュ社製品を国内独占販売し、自社製品をグローバル展開している。
同社は2030年に「ヘルスケア産業のトップイノベーターになる」という目標を掲げている。具体的には、「世界の患者さんから、中外なら必ず新たな治療法を生み出してくれると期待される企業」「中外と組めば新しい何かを生み出せると想起する、世界の人財とプレーヤーを惹きつける企業」「事業活動を通じて社会課題を解決する世界のロールモデルとなる企業」を標榜する。
こうした指針は、経営トップが定期的にライブトークを行い、それを同時配信することで社員に直接語りかけ、社員からの質問にもその場で答えるという、双方向で直接やりとりできる機会を設けることにより浸透を図っている。
「トップイノベーターを目指すためには、社内の人財が、企業の理念や方向性に共感し、働きがいを感じて働くことが必要。人材ではなく『人財』と10年以上前から言い続けている」と、同社上席執行役員で人事部長の矢野嘉行氏は力説する。こうした前提に立ち、同社では自律、成長、人との協働を通した働きがいを高めるべく、人事施策を展開している。その具体的な施策や取り組みを見ていこう。
同社の働き方の基本は自律支援型のマネジメントだ。会社戦略、組織のミッションを理解して個々人が自ら課題を見つけて考え、リーダーシップを発揮して解決していく。上司からの指示だけではなく、自分で考えて働くことを重視する。この理念をより具現化するため、2020年4月に人事制度を刷新した。新制度では、最低限達成すべき水準で作成する目標以外に、ストレッチした水準で難度の高い目標も設定する「コミット&ターゲット」を導入し、成長を望む社員のチャレンジの促進と働きがいを汲み取るようにした。