全国3000社が導入し、話題沸騰のマネジメント法「識学(しきがく)」の代表・安藤広大氏。「リーダーの言葉は遅れて効いてくる」「仕事ができる人は数値化のクセがある」などの考え方が、多くのビジネスパーソンに支持されている。近刊の『数値化の鬼』では、「感情を横に置いて、いったん数字で考える」「一瞬だけ心を鬼にして数値化する」など、頭を切り替える思考法を紹介した。
この記事では、最近、経営者の間で話題となっている「人的資本経営」という概念について語る。これからのビジネスパーソンに必須の概念を、ぜひ身につけてほしい。
年功序列が生産性を落とす
社員が「選ばれなければいけない存在」であるということに対する認識が低いということが、日本の生産性を下げている大きな要因です。
その問題意識は、多くの経営者と意見交換する中で共通の認識であると言えます。
年功序列は徐々に崩れてきているとは感じますが、年齢とともに給与が上がる仕組みは残っていますし、解雇という仕組みがないので、成果を上げない状況が長く続いても会社に居続けることができます。
会社を辞めさえしなければ、在籍し続ければ、給料がもらえて、さらに給料が上がっていくというのが多くの企業の実態です。
「窓際族」なんていう言葉があるのも、そのことを象徴しています。
会社にとっては、「給与よりはるかに低い成果しかあげられない戦力」を抱えることになります。これでは当然、生産性を高めることができません。
「戦力外通告」をされる時代
日本全体が成長していた時代や、その貯金があった時代はそれでもよかったのかもしれません。なぜなら、多くの労働者が「逃げ切る」ことができたからです。多くの人が、そのような状況の中でも無事に「引退」を迎えることができました。
しかし、これからの日本ではそういうわけにはいきません。これまで労働者にとっての大きなメリットだった「守られている」という環境が大きなデメリットになっていきます。
「守られている」という環境下では、自分の成果以上に収入を獲得することができます。
自分の成果以上に収入を獲得できる環境というのは、一見、おトクなように感じますが、雇用する側からすると評価は下がり続け、それが社内に蓄積していっている状態です。
ひたすら会社に「借金」を溜め続けることになっていきます。
会社が成長をし続ければ、借金を飲み込んでくれることも可能ですが、成長が止まり、存続を優先しなければいけないタイミングになると、借金の多い順に、突然、「退場」を宣告されることになってしまいます。
これからの時代、「選ばれなければいけない存在」であることを忘れてしまうと、突然に「選ばれなくなる」ということが、多くの会社で発生するかもしれないのです。
それでは、この課題に対して、会社はどのような解決策を投じるのがいいのでしょうか。
成長を奪い、首を絞める企業
やはり、「従業員に現実をしっかりと伝える」ということが重要です。
評価が下がっている、会社に借金が溜まってきているという現実をしっかりと伝えてあげるのです。
そうすれば、ある日突然、退場を命じられる前に努力もできますし、結果的にプラスの存在になってくれれば、会社にとっても大きなメリットです。
日本の企業は、「労働者を大切にする」というお題目のもと、しっかりと現実を伝えることをせずに、従業員が成長する機会を、成長せざるをえない機会を潰してきました。そして、会社全体の生産性が上がらずに、自分たちの首を絞めてきました。
会社にとってマイナスの存在になっているのであれば、その事実を1日でも早く伝えることが双方にとってプラスです。そうすれば、自分が「選ばれなければいけない存在」であることを正しく認識できます。
会社全体の生産性も高まり、1人1人に分配できる給与の金額も増えることになります。
これをさらに押し進めていくために、どのような方法で実現していくのがよいのか、次回に解説しましょう。
株式会社識学 代表取締役社長
1979年、大阪府生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社NTTドコモを経て、ジェイコムホールディングス株式会社(現:ライク株式会社)のジェイコム株式会社で取締役営業副本部長等を歴任。2013年、「識学」という考え方に出合い独立。識学講師として、数々の企業の業績アップに貢献。2015年、識学を1日でも早く社会に広めるために、株式会社識学を設立。人と会社を成長させるマネジメント方法として、口コミで広がる。2019年、創業からわずか3年11ヵ月でマザーズ上場を果たす。2022年7月現在で、約3000社以上の導入実績があり、注目を集めている。主な著書に、シリーズ62万部を突破した『数値化の鬼』『リーダーの仮面』(ダイヤモンド社)がある。