退職代行会社における
弁護士法違反のリスク
しかし一方で退職代行サービスについては問題点も指摘されている。具体的には退職代行サービスを専門的に行っているいわゆる「退職代行会社」の存在が、弁護士法違反なのではないかという問題だ。
弁護士法72条では、弁護士または弁護士法人以外は「その他の法律事務」を行ってはいけないと定められている。
「その他の法律事務」とは、「法律上の効果を発生、変更する事項の処理や、保全、明確化する事項の処理(東京地方裁判所平成29年2月20日判決・東京地方裁判所平成29年(ワ)第299号参照)」のことで、簡単に言うと、「退職」の意思表示を本人に代わり会社に伝えるという行為は「労働契約の終了」という法律上の効果を発生させるものなので、退職代行という行為は「その他の法律事務」に該当するのではないかということだ。
現状では、この問題の判例・裁判例は存在しないため、あくまで筆者の個人的な見解になるが、筆者は「弁護士または弁護士法人以外の個人や退職代行会社が業として行う退職代行は、確たる判例・裁判例は存在しないものの、弁護士法72条違反の可能性が極めて高い」と考えている。
例えば、ネット情報の削除代行業者が、サイト運営者にネット記事削除を求めることは、弁護士法72条に違反するため、削除代行業者と利用者との間の契約が無効であるとの裁判例が存在する。
よく退職代行会社のホームページに、「『代理人』ではなく『使者』であるため、弁護士法72条に違反していません」と記載していることがあるが、上記の裁判例を見ると、裁判所は「代理」か「使者」かという点には着目しておらず、「法律事務」という法律上の効果を発生、変更する事項の処理や、保全、明確化する事項の処理に当たるかどうかを端的に判断しているので、「『本人がこう言っているのを伝えているだけ』と全て『使者』の形式さえとれば弁護士法72条に違反しない」という理解は大変危険といえる。
また、退職代行会社のホームページで「非弁行為(弁護士でない者が、報酬を得る目的で、弁護士にのみ認められている行為をすること)となるため会社(勤務先)との交渉はいたしません」との記載を目にすることがあるが、「退職」という行為そのものが「労働契約の終了」という法律上の効果を発生させるものなので、「その他の法律事務」に該当すると筆者は考えている。
中には「顧問弁護士の指導を受けているので安心です」という退職代行会社もあるようだが、その顧問弁護士がこれまで述べてきたような弁護士法や裁判例について知らない可能性もある。
現状、退職代行サービスの弁護士法違反に関する判例・裁判例は存在しないとはいえ、弁護士および弁護士法人以外の退職代行会社については、弁護士法違反で担当者が逮捕されるリスクが存在するということに注意が必要だ。