カシオ計算機のG-SHOCKは2023年に発売40周年を迎える。ブランドのマーケティング戦略はターゲットをピンポイントに定めがちだが、G-SHOCKは幅広い地域で幅広い年齢層を取り込んできた。多くのブランドが苦戦しているZ世代への訴求もぬかりはない。一方、スマートウオッチの台頭や腕時計離れなど市場環境も大きく変わり、時計はブレスレットや宝飾に近い存在にもなりつつある。そうした中、G-SHOCKブランドは今後も「時計」ブランドとしてあり続けるのか。マーケティングのOS力を高めるオンライン勉強会「マーケリアルサロン」のトークイベントで、カシオ計算機の時計マーティング部の上間卓マーケティング部長が語った内容を2回に分け、ここでは後編をお届けする(敬称略)。(構成:栗下直也)
■前編「G-SHOCKは97年の大ブーム→暗黒時代を経て、いかにして世界的ブランドになったのか?」はこちら

40年で何が変わり、何が変わっていないか

2023年にG-SHOCKは40周年を迎えます。時代とともに何が変わり、何が変わっていないか。われわれ自身、本当にG-SHOCKを分かっているのか。今、社内ではそこを一から考え直してみようと試みています。

誕生40周年を迎えるG-SHOCKが、「時計」を超えて次代のファンをつかむには?ブランドブックの目次

というのも、よく驚かれますが、実は、G-SHOCKはブランドブックが今までありませんでした。ブランドの価値を活字でしっかりと定義せずに、気づけば40年近く経っていたわけです。社員も何となくイメージで「G-SHOCKといえば、タフさが特徴だよね」と共有している状態でした。文字にしていなくても共通のイメージを持てるのはある意味凄いのですが、果たして世界中の社員が「G-SHOCKはタフだよね」で終わらせてよいのか。一回しっかり考えてみようとブランディングを本格的に始めました。

G-SHOCKとは…?問い直す

ブランディングと聞くと大手の広告代理店やコンサルにお任せするイメージがあるかもしれませんが、われわれは自社で取り組んでいます。

具体的には、世界中の時計事業の関係者約350人にアンケートを実施しました。それをベースに各部門から選んだ30人程度で定期的に集まって半年以上議論を重ねました。

「G-SHOCKとは挑戦をともに楽しむ相棒である」
「タフネスとは堅牢なボディ、不屈のスピリット」

など、初めて文字として定義しました。こうした活動によって世界中の社員にブレない軸を目に見える形でつくり、ファンの期待を裏切らない商品やサービスをこれまで以上に提供できる土壌を整えました。機能的価値や社会的価値などG-SHOCKが提供するさまざまな価値も整理し、そうした価値が実現できているか、伝わっているかなどを調査しながら今後のマーケティングに生かしていきます。

グローバルとローカルの認知をすみ分ける

誕生40周年を迎えるG-SHOCKが、「時計」を超えて次代のファンをつかむには?「SHOCK THE WORLD」の様子

このようなブランド全体を見つめ直す活動のかたわら、大きなイベントも予定しています。われわれは「SHOCK THE WORLD」というファンや流通関係者、メディア関係者と連動したPRイベントを、2008年から5年ごとに開催しています。2000年代初頭にブームが終わり、大きな落ち込みを経験した後に、G-SHOCKの本質や世界観を伝えようと始めたPRイベントです。これまで世界34ヵ国で約70回以上、開催しています。

また、40周年を機会にアンバサダー・インフルエンサーマーケティングを、さらに強固にしていければと考えています。われわれは5年ごとに圧倒的な発信力があるアンバサダーを起用してきましたが、これからは同時にMZ世代を獲得するためにマイクロインフルエンサーを積極的に起用するつもりです。30周年までは知名度のある人だけを起用する傾向にありましたが、これからはグローバルをアンバサダーで、ローカルはマイクロインフルエンサーとうまくすみ分けて認知を広げながら深掘りしていきたいです。

多くの企業がZ世代への訴求に頭を悩ませていますが、われわれは極論で語れば「格好良いなと思ってもらうだけで十分」と思っています。G-SHOCKを知らない人も多い世代ですし、仮に知っていても「中学や高校に入るときに親からもらった時計」の位置づけです。ですから、認知していない人には、まず知ってもらい、「親からもらった時計」の認識の人にはそのイメージを払拭して、「格好良い」と思ってもらいたい。もちろん、買っていただければそれが最良ですが、5年後に買っていただくための種まきの感覚で取り組んでいます。

「世界にひとつ」のG-SHOCK

誕生40周年を迎えるG-SHOCKが、「時計」を超えて次代のファンをつかむには?上間卓さん
カシオ計算機株式会社 営業本部マーケティング統轄部 時計マーケティング部部長
カシオ計算機に入社、時計の国内営業にてキャリアをスタートし、時計戦略部・時計マーケティング部と入社以来一貫して時計部門に携わる。G-SHOCKブランドの創成期から、100ヵ国近くで販売されている現在では、商品・流通・プロモーションとグローバルマーケティングを推進している。近年はリアルとデジタルマーケティングの融合に注力している。

もちろん、ファンをつかむ新たな取り組みも地道に続けています。

そのひとつが、カスタマイズサービス「MY G-SHOCK」です。これは「自分だけのこだわりのG-SHOCKが欲しい」「思わずプレゼントしたくなるG-SHOCKが欲しい」というファンの要望にこたえたものです。バンドやベゼル、文字板などを交換できて、カスタマイズできるサービスで2021年10月に始めました。

この試みはウェブやSNSなどとも親和性が高いのも特徴です。様々な体験談が拡散されてG-SHOCKの楽しさ、触れる楽しさのアピールにつながっています。

アンケートを見ても「あの人のことを想像して世界にひとつのG-SHOCKをつくって送りたい」というプレゼント需要はとても大きいです。この市場はもっと深掘りできるのではと考えています。

もうひとつの新たな試みは、レストアサービスです。大切な1本を愛用し続けたいファンに向けた修理サービスです。G-SHOCKファンの中には、コラボ商品を幅広く集めている方も多いのですが、愛着ある1本をずっと使い続けている方もたくさんいます。ただ、例えば1983年の初期モデルなどはプラスチックが経年劣化で加水分解してしまうこともあります。そこで、期間限定ではありますが、バンドやベルト、ベゼルを交換したり、電池交換したりして新品同様に戻すサービスを始めています。

すでに感謝のお手紙もたくさんいただいています。「祖母に買ってもらった思い出の品でした」「小学生のときからずっとこれを使って、朝から晩まで一緒にいました」など想像以上の反響でした。改めて実感しましたが、レストアサービスはG-SHOCKを修理するだけでなく、G-SHOCKとともに刻んだ大事な思いを残すためのサービスでもあります。コスト面では割に合わない事業ですが、ファンとのつながりのサービスとしてしばらくは継続する予定です。

ファンとのつながりの強化の一環として、ファンミーティングも開いています。商品好きのファン向けには開発者と、スポーツ好きのファンにはコラボを展開するアスリートたちとの交流会を開いています。また、ファッション好きの方には、アパレルブランドのファッションイベントを音楽ファンにはシークレットライブに参加する機会を用意しています。様々なファンの嗜好性に合わせた幅広いイベント企画というのが、G-SHOCKが支持されている理由のひとつにもなっています。

G-SHOCKは「時計」ではない

さて、G-SHOCKの歴史や商品開発、マーケティングについてお話しししてきました。ここからは、G-SHOCKがこれからどこに向かうかをお話しします。

G-SHOCKのブランド・アイデンティティは「G-SHOCKとは挑戦をともに楽しむ相棒である」です。「時計」ではなく、「相棒」なんですね。それならば、身につけるもの全て、持ち物全てがG-SHOCKでもいいのではないか、ライフスタイルブランドになってもいいのではないか。時計ブランドからライフスタイルブランドへ。これが今、目指すべき姿ともいえるでしょう。

時計に興味のない方に新しくファンになってもらえる可能性も生まれますし、G-SHOCKファンは時計以外にもいろいろなアイテムを揃えられます。

すでにアパレルは4月から展開しています。タフなコーデュラ素材を用いたデニムやTシャツで、デニムジャケット2万9700円(税込、以下同)、ジーンズ1万9800円、Tシャツ7700円と決して安くない値段設定ですが、発売即完売でした。

最も嬉しかったのは新規のお客さまの多さです。時計としてのG-SHOCKに関心がなかった層が訪れたり、G-SHOCKを買い求めた経験はあるものの、しばらく離れていた層が「へぇ、こんなことやっているんだ」と戻ってきてくれたりしたのです。

今後はアパレル以外でも例えば、音楽ギアや工具用品、アートグッズなどの展開も検討しています。皆様との接点を増やすことで、時計以外のブランドに進化していける手応えはあります。

コロナ禍で消費者の行動様式は変わりましたが変わらないこともあります。リアルでも、オンラインでも、ファンがブランドを体験できる場は不可欠です。そうした仕組みを今後もつくり続けることで、長く愛し続けてもらえるブランドを目指していきたいです。