令和の“農業維新”が始まった。幕末の志士役は豪農となったコメ農家たち、黒船役は、欧米発のテクノロジーだ。農業を牛耳ってきたJA全農や農協は置き去りにされつつある。大政奉還は、すぐそこまで来ている。特集『儲かる農業2024 JA農水省は緊急事態』(全17回)の#2では、農業の主役交代の最前線に迫った。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)
幕末の志士の役は、各地の豪農たち
黒船は、マイコスなど欧米のテクノロジー
コメは日本農業の象徴であり、弱点でもあった。狭い水田を耕作するコメ農家は補助金に頼らざるを得ず、そのために、野菜農家より保守的な傾向があった。ところが近年、突き抜けたコメ農家が出現。令和の“農業維新”といっても過言ではない変革が起きようとしている。
役者はそろっている。明治維新を実現した幕末の志士の役を担うのが、ダイヤモンド編集部が選定したレジェンド農家ベスト20(詳細は本特集の#12『【レジェンド農家ランキング・ベスト20】「時給2500円」は当たり前!5位グリンリーフ・野菜くらぶ、2位サラダボウル、1位は?』参照)に入る豪農。具体的には、経営面積が100~400ヘクタール超に達したヤマザキライス(埼玉県)、小林農産(三重県)、トゥリーアンドノーフ(鳥取県)などの40代の経営者たちだ。
志士たちを刺激する黒船も来航している。
その代表格が、米国発の菌根菌資材マイコスである。マイコスをまぶしてまいた種もみは、田に水を張らなくても雨水で育つ。毛細根が発達し吸水力が高まるためだ。
田に水を入れない乾田直播という栽培方法なら、育苗、田植え、水位の管理の手間が省ける。マイコス米の生産や農業資材の開発・販売を行うNEWGREENによれば、農業従事者1人当たりの栽培可能面積は慣行栽培の20ヘクタールから47ヘクタールへと急増する。何百枚という田を耕作しなければならない豪農たちが飛び付くのもうなずける。
マイコスへの注目度はこの1年で劇的に高まった。全農地100ヘクタールで同菌根菌資材を活用するトゥリーアンドノーフの徳本修一社長が昨年秋、マイコス米の生育状況の動画をYouTubeにアップしたところ20万回も再生された。マイコスの説明会に定員の1.5倍の農家が押し掛けたこともあった。
次ページでは、マイコスに次ぐ第2の黒船の正体や、黒船のテクノロジーを駆使したコメの生産コスト低減の実態、500万トンコメ輸出計画の全貌を明らかにする。