ブラジル大統領選挙の結果、ルラ氏が大統領の座に返り咲く。ルラ新政権の政策を市場は懐疑的に見ており、政策への懸念が景気の先行きにも影を落としている。なぜ、新政権の政策が嫌気されるのかを検証する。(第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濱 徹)
ルセフ前政権下で
財政は大幅に悪化
ブラジルでは、10月に行われた大統領選(決選投票)において大激戦の末に左派の労働者党(PT)から出馬したルラ元大統領が僅差で勝利し、2023年1月に12年ぶりに大統領に返り咲きを果たすことが決定している。
ルラ氏を巡っては、2003年から丸8年間にわたり大統領を務め、当時は低所得者給付をはじめとする社会保障制度の拡充などに動いたこともあり、低所得者層などを中心に極めて高い人気を有している。
なお、ルラ氏は大統領退任後、在任中の汚職疑惑を理由に有罪判決を受けていったんは収監されたものの、21年には手続き上の問題を理由に一転無罪とされるなど、同国政界を揺るがした国営石油公社(ペトロブラス社)を舞台とする汚職事件に関わった疑念が呈された経緯がある。
しかし、上述のように無罪となったことを受けて晴れて大統領選に出馬することが可能になるとともに、世論調査では一貫して首位を走る展開が続いたため、大統領選での勝利そのものは既定路線であったと捉えられる。
他方、前回の大統領就任時はさまざまなバラまき政策を実施して歳出拡大が進んだものの、当時の同国経済は『右肩上がり』の状況にあるなど歳入が大きく上振れしたことで、財政状況は比較的健全な状態が維持されてきた。
ただし、ルラ氏が事実上禅譲する形で後任の大統領となったルセフ氏の下では、景気低迷による歳入減を受けて財政上の『粉飾決算』が行われるとともに、最終的にルセフ氏は大統領職を弾劾される事態に発展した。