ワクチン接種の進展もあり、新型コロナウイルスの感染状況は落ち着いてきたブラジル。しかし、干ばつとエネルギー価格上昇などによる物価高に悩む。中央銀行はインフレ抑制のために利上げを継続し、景気は減速している。一方でボルソナロ大統領率いる政府は財政出動し景気を下支えするというちぐはぐな状況が続いている。(第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹)
ワクチン接種進み
新型コロナ感染者数は減少
ブラジルは、2020年春以降、たびたび新型コロナウイルスのパンデミックの中心地となってきた。その結果、ブラジル国内における陽性者数は米国、インドに次ぐ水準、死亡者数は米国に次ぐ水準となるなど、世界的に見ても極めて厳しい状況に直面した。
これには、新型コロナウイルスを「ただの風邪」とするボルソナロ大統領の下で連邦政府レベルでは経済活動を優先して行動制限に及び腰の対応が採られる一方、地方政府レベルでは積極的な行動制限が採られるなどちぐはぐな対応が続いたことも影響している。
ブラジルは世界的な感染拡大の中心地となったことで、新型コロナウイルスワクチンの治験が実施されたほか、年明け以降は接種も開始された。しかし、ボルソナロ大統領は自身が新型コロナウイルスにり患したにも拘らずワクチンに対して懐疑的な見方を示すのに対し、連邦政府(保健当局)や地方政府は国民に積極的な接種を呼び掛けるなど、感染対策同様にちぐはぐな対応が見られた。
こうした状況ながら、12月13日時点における完全接種率(必要な接種回数をすべて受けた人の割合)は65.32%、部分接種率(少なくとも1回は接種を受けた人の割合)も77.59%に達するなど、新興国のなかでは比較的接種が進んでいる。
ワクチン接種の進展も追い風にブラジル国内における新規陽性者数は6月末を境に頭打ちしており、今月10日時点における人口100万人当たりの新規陽性者数(7日間移動平均)は37人とピーク(362人:6月23日時点)から大きく低下している。