個人も組織も、学ぶことは大切ですが、もはや、それだけで十分ではありません。ビジネスでも、スポーツでも、同じスキルや戦略が、そういつまでも通用はしません。常に何かを学びなおさなければいけない時代になっています。リーダーにとって、学びなおす力であるアンラーンを妨げるのは、過去に達成するのに役立ったが今では限界に達している行動や方法、つまり「成功体験」だったりします。セリーナ・ウィリアムズからディズニー、アマゾン、テスラ、グーグル、NASA…事例満載でアンラーンの全貌がはじめてつかめる本、『アンラーン戦略 「過去の成功」を手放すことでありえないほどの力を引き出す』(バリー・オライリー著、ダイヤモンド社刊)から、監訳者の中竹竜二さんによるまえがきを紹介します。(文:中竹竜二)
なんとなく波にのりがちだけれど…
なんとなく社会の波に乗るのは簡単で、なんとなく安心・安全にも感じる。あえてそこに深い洞察力を持って、常識を疑い、矛盾に敏感になり、新たな問いを立てていくことは、「再学習」の始まりと言えるだろう。
世の中の常識にしばられ、個人の言動や組織の可能性を抑圧していないか、立ち止まってチェックしよう。心地よい場所から一歩踏み出すためには、勇気が必要で、痛みも伴う。
それでも、いったん境界線を越えれば、これまで気づかなかった偉大な学びが押し寄せてくるはずだ。
自己啓発の書籍は多種多様だ。ただし、一つだけ共通点がある。それは、読んで満足、消費して終了ではなく、アクション(行動変容)が重要なことだ。
しかし、人はそう簡単に馴染んだ習慣を変えられない。変えたいと思っていても、さまざまなブレーキ装置が個人の中にも、組織の中にも、社会の中にも組み込まれているからだ。
理論と実践に関しては、昔から対立構造がある。凡庸な理論家は安易で幼稚な実践を蔑み、凡庸な実践家は小難しい理論や理屈を毛嫌いする。ついつい我々は「OR(あれかこれか)思考」になりがちだ。
だからこそ、本書の著者バリー・オライリーが強調する「大きく考え、小さく始めよう」を意識して、ステップ3の「ブレークスルー」を達成しなければならない。そうすれば徐々に「AND(あれもこれも)思考」へと転換していくだろう。
アンラーン戦略は個人にも組織にも効く
アンラーン戦略の主領域は組織学習ではあるが、組織だけでなく、個人の成長にも大きく寄与する。
そもそも、人間が社会的動物である以上、個人の変革は組織の変革を促すと同時に、組織の変革は個人の変革を促す。個人の価値と組織の価値に優劣はなく、切り離せないからこそ、常に相互作用が起こるのだ。
また、さらに視野を広げれば、個人や組織だけでなく、社会全体の成長に対しても、アンラーンのサイクルを回していくこともできる。
健全な社会の変容を生涯のミッションとしている発達心理学者のオットー・ラスキー博士は、「アンラーンは人、組織、社会の成長の前提条件である。ただし、そこには大きな痛みが伴う」と言い切った。痛みとは、主観的なもので、実際は刺激だ。
ただし、知らず識らずのうちに、我々は「痛み」をネガティブに捉えすぎてきたかもしれない。そして「痛み」を過度に回避してきたかもしれない。本来、「痛み」には学習を促進させる大きな可能性が秘められているのだ。
個人と組織の成長支援を行うチームボックスでは「アンラーン」をサービスの核としている。
なぜなら、代表である私自身が誰よりもこの言葉に敬意を払い、価値を信じているからだ。
この10年、クライアントにアンラーンの意義を伝え続け、問いかけ続けてきた。しかし、そんな私も、本書に何度も痛いところを突かれ、恥ずかしさや悔しさといった葛藤を味わい悶々としている。
頭ではわかっていても、できているかは別物だ。
この後、本編を読み進めていただくなかで、もし、あなたが「痛み」を感じたなら、それはアンラーンのサイクルの始まりだと信じてほしい。
では、始めよう、あなたのアンラーン戦略への一歩を。