個人も組織も、学ぶことは大切ですが、もはや、それだけで十分ではありません。ビジネスでも、スポーツでも、同じスキルや戦略が、そういつまでも通用はしません。常に何かを学びなおさなければいけない時代になっています。その時代のキーワードこそ、アンラーンです。学びなおす力であるアンラーンを妨げるのは、過去に達成するのに役立ったが今では限界に達している行動や方法、つまり「成功体験」だったりします。セリーナ・ウィリアムズからディズニー、アマゾン、テスラ、グーグル、NASA…事例満載でアンラーンの全貌がはじめてつかめる本、『アンラーン戦略 「過去の成功」を手放すことでありえないほどの力を引き出す』(バリー・オライリー著、ダイヤモンド社刊)から、アンラーン戦略の重要ポイントを紹介していきます。(監訳:中竹竜二、訳:山内あゆ子)

心理的安全性Photo: Adobe Stock

不慣れな環境で再学習に成功するために

 今の自分を制限している、根深く染み付いた方法や行動、考え方を脱学習すると、新しいデータや情報、視点を受け入れることができる。こうした新しいインプットを検討することで、必然的に今の自分の世界の捉え方に疑問を持つようになる。この洞察を利用して、適応し、成長することができるというわけだ。難しい課題を探求することで、自分自身についてとても多くのことがわかる。放っておくと自分の心と体がどんなことに抵抗するか、わかるようになる。

 また、成功するために、自分の内面と外部にある障害を乗り越えるために計画的に実践する、自制心とその力についても理解できるだろう。自らの回復力と自己信念を築き上げるのだ。

 だが、「効果的な再学習」には大きな困難が伴う。そしてその困難の多くは、自分自身がつくり出してしまうものだ。まず、直感的にこうだ、という自分の思い込みに反する情報を受け入れ、順応しなければならない。

 これまで「こうすべき」と言われたり、教わったりしてきたこととはまったく違うかもしれない。さらに、学び方そのものを学び直す必要があるかもしれない。そして、今ある安全地帯の外に、再学習が行える環境を作らなければならない。

〈アンラーンのサイクル〉の最初のステップ「脱学習」では、まず革新することの必要性を認めなければならない。そしてこの2番目のステップ「再学習」では、自信、能力、勢いを意図的に培う。

 より良い情報を手に入れ、これまでとは違うやり方で見たり聞いたり、感じたりして、違った反応や行動をしなければならない。再学習とは、計画に基づく実践的、経験的な学習を通じて、予測のつかないことに向き合いつつ実験するスペースを持つことだ。

 再学習には、今現在できると信じていることに疑問を持つことが不可欠だ。目標を大きく掲げて、世界に対する自分の仮説に挑もう。野心的に考えながらも、小さな一歩から始めなければならない。再学習するためには境界のある環境、つまり失敗したとしても安全な環境を作り、その中で小さなステップと実験を繰り返すのだ。

 本書では、たくさんの実例、クライアントの話、ケーススタディを通じて、心理的にも肉体的にも経済的にも、「安全性」こそが、高いパフォーマンスや並外れた成果が出せるかどうかの主要な指標になることを示す。

 心理的安全性については、ボストン大学のウィリアム・A・カーンが「自己イメージや自分の地位や仕事に悪影響があるかもしれないと恐れることなく、ありのままの自分を見せ、ありのままに行動することが可能な状態」と定義している。失敗しても回復が可能な形で実験をコントロールして行えるような場所を作り、心理的安全性を高いレベルに保つことによって、これまでの行動を修正し、自分の世界の極限を探求し、成長につなげていくことが可能になるというのだ。

 だからこそ、法外なリスクを抱え込まないように、大きく考えて小さく始めるのだ。安全地帯の外で活動するものの、あなたも組織もチームも、もし予想どおりにいかなかったとしても、破滅的な結末に至ることはない。実際、未知の場所に最初の一歩を踏み出すときには、思いどおりになるなどと期待してはいけない。