必ず定時で帰るのにトップレベルの成果を挙げている人と、残業で疲弊してばかりの人。同じ1週間なのに、大きな差が生まれてしまう。その理由は何なのだろうか? そこで参考になるのが、Googleで最速仕事術「スプリント(デザインスプリント)」を生み出し、世界の企業の働き方に革命を起こしてきた著者による『時間術大全――人生が本当に変わる「87の時間ワザ」』だ。本書はたちまちのうちに話題となり、世界的なベストセラーになっている。著者のジェイク・ナップはGoogleで、ジョン・ゼラツキーはYouTubeで、長年、人の目を「1分、1秒」でも多く引きつける仕組みを研究し続けてきた「依存のプロ」だ。そんな人間心理のメカニズムを知り尽くした2人だからこそ、本書では、きわめて再現性の高い時間術が提案されている。本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、「生産性を高める技術」を紹介する。(構成:川代紗生)

時間術大全Photo: Adobe Stock

「生産性が低い人」が今すぐやめるべきNGワード

 毎日終電近くまで残業しているのに、仕事がなかなか終わらない……。

 体もメンタルもクタクタで、せっかくの休日もベッドの中から起きられず、体力を回復するだけで終了。長期プロジェクトだと途中で息切れしてしまい、いつも最後までやり切らずに終わってしまう。

 そんな悩みを持つ人に、今日からすぐにやめてほしい「NGワード」がある。

 それは、「もう1つだけ」だ。

『時間術大全』の著者・ジェイク・ナップは、Google式最速仕事術「スプリント」を考案したとき、「生産性」をガクッと下げる要因に気がついたという。本書には、こう書かれている。

スプリントでは、メンバーが疲れ切る前に1日を終わりにすると、1週間の生産性が劇的に高まることがわかった。1日の労働時間を30分短くするだけでも、大きな違いがあった。(P.100)

 私たちは、「生産性を上げたい」と思うと、つい「1日でどれくらいのタスクをこなすか」に焦点を当ててしまう。

 しかし、長期プロジェクトにおいては、それはむしろ逆効果だ。そう、「1日で全力を出し切らない」ことがポイントだったのだ。

「エネルギー維持」の方法を考えよう

 一口に「時間を有効活用する」といっても、どれくらいのスパンで物事を見るのかによって、戦略は変わってくる。1時間の短期決戦なのか、それとも3日間なのか、1週間なのか。

 たとえば、月曜日の1日さえ乗り越えればそれでいいなら、エネルギーが尽きる限界ギリギリまで働けばいい話だが、たいていの仕事は、そうではない。

 責任の重い、重要なプロジェクトになればなるほど、それに取り組む時間も長くなるだろう。

 長期間の生産性を上げるためには、「エネルギーの効率的な使い方」だけではなく、「どれだけエネルギーを維持できるか」も合わせて考えなくてはならないのだ。

「もう1通だけメール返そう」が翌日の成果を下げる

 そこで、今日からやめるべきなのは、「もう1つだけ」という言葉だ。

 忙しく、タスクがたくさん溜まっていると、つい「あともう1つだけ」と、なかなか仕事を終えられないだろう。

「もう1つだけ雑用を終わらせてから帰ろう」「もう1つだけ書類をつくっておこう」「寝る前に、一応もう1回だけメールをチェックしたい」など、疲れ切った体に鞭を打つように、あと1つ、あと1つとタスクをしたくなってしまう人は多いはずだ。

 真面目で責任感の強い人ほど、限界ギリギリまで仕事をしていないと、落ち着かないだろう。

 しかし、実はこれこそが、生産性を下げる大きな要因だ、と本書では語られている。

 多忙中毒の風潮があまりにも強いせいで、「もう1つだけ」が責任あるまじめな人の務めで、遅れずについていくにはそうするしかないと思わされている。

 でも、そうじゃない。疲れ果てるまで働くと、かえって遅れをとりやすくなるのだ。必要な休息がとれないから、優先度の高い仕事で最高の成果を挙げられない。(P.100)

1日の適切労働量を見極めるシンプルなルール

 本書の中では、「運動や食事、睡眠、静寂、親密な時間などでバッテリーを充電する」ことの重要性が、たびたび書かれている。

「エネルギーチャージの方法」だけで1つのチャプターがあり、27もの「チャージ戦略」がまとめられているほどだ。

 世界屈指の企業で働く彼らがそこまで「体力チャージ」に気を遣っているというのは意外だったが、同時に、とても面白い発見だった。

 集中力を高め、いちばん優先度の高い重要な仕事に取り組むためには、脳にエネルギーが必要だ。脳がガス欠の状態で前に進もうとしても、ダラダラと無駄に時間が過ぎていくだけだ。

 それどころか、疲弊しきった脳を無理やり動かすことで、まともに回復できず、次の日、さらに次の日……と、日を追うごとに疲労の負債が溜まっていく。結果、週末にクタクタで一歩も外に出られない羽目になる。

 そこで、本書で提案されている、シンプルながらも有効なルールは、これだ。

1日が終わりに近づき、手がかからないはずの仕事にも苦労するようになったら、その日は帰っていいことにした。(P.101)

 思い切って仕事を切り上げることで、長い勤務時間のあいだもエネルギーを維持できるようになったという。

 もちろん、繁忙期でそうも言っていられない日もあるだろう。しかし、長い目で見れば、ずっとガス欠で走り続ける人生は、どんなに体力がある人でも、どんなにメンタルが強い人でもつらいはずだ。

 忙しすぎて心身ともに疲弊している、という人は、一度立ち止まって、自分の時間の使い方を見直してみてはいかがだろうか。『時間術大全』は、その手助けをしてくれるはずだ。