電線・鉄塔Photo:PIXTA

行動制限が解除され、入国制限も大きく緩和されるなど、人々の生活は少しずつ「コロナ前」に戻りつつある。だが、一難去ってまた一難。ビジネスの世界では、円安や資材高が多くの企業を混乱のうずに巻き込んでいる。その状況下で、好決算を記録した企業とそうでない企業の差は何だったのか。上場企業が発表した直近四半期の決算における売上高を前年同期と比べ、各業界の主要企業が置かれた状況を分析した。今回は東京電力ホールディングス、東京ガスなどの「電力/ガス」業界5社について解説する。(ダイヤモンド編集部 濵口翔太郎)

5社がそろって大幅増収も
うち4社が最終赤字

 企業の決算データを基に「直近四半期の業績」に焦点を当て、前年同期比で増収率を算出した。今回の対象は以下の電力/ガス業界5社。対象期間は22年5~9月の四半期(5社いずれも22年7~9月期)としている。

 各社の増収率は以下の通りだった。

・東京電力ホールディングス
 増収率:64.9%(四半期の売上高2兆288億円)
・関西電力
 増収率:47.3%(四半期の売上高1兆166億円)
・中部電力
 増収率:59.4%(四半期の売上高1兆133億円)
・東京ガス
 増収率:61.4%(四半期の売上高7513億円)
・大阪ガス
 増収率:53.0%(四半期の売上高5144億円)

 電力/ガス業界の5社は、いずれも約5~6割の大幅増収となった。だが、この数値を額面通りに受け止め、各社が好調だと見なすのは早計だ。

 というのも、電力/ガス業界では現在、ロシアによるウクライナ侵攻などの影響で燃料・原料価格が高騰し、調達コストが急上昇中だ。

 前四半期の記事でも解説した通り、各社は増加したコストを吸収するべく、燃料・原料価格の上昇分を電気・ガス料金に転嫁している。各社が大幅増収となった要因は、この値上げによるところが大きい。

 ただし、各社が使用している、燃料・原料費の変動分を料金に自動転嫁する制度(※)には、需要家保護の観点から上限額が定められている。燃料・原料費の増加が一定の水準に達すると、企業側はそれ以上、料金への上乗せができなくなり、差額を自社で負担しなければならない。

※電力業界の燃料費調整制度、ガス業界の原料費調整制度

 この影響もあり、電力3社と大阪ガスは上半期(22年4~9月期)累計で最終赤字に陥っている。

 また、関西電力と中部電力は「カルテル問題」の渦中にある。両社と中国電力・九州電力は電力販売を巡って、お互いの顧客獲得を制限するカルテルを結んでいた疑いが強まっている(詳細は『関電・中部電・九電・中国電のカルテル処分で「値上げ」「業界団体トップ人事」は難航必至』参照)。
 
 このうち関西電力は、違反があった旨を公正取引委員会に最初に自主申告した。そのため独占禁止法のリーニエンシー(課徴金減免)制度によって、現時点では課徴金の支払いを免れている。一方、中部電力など3社は、独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで、公取委から課徴金納付を命じる処分案が通知された。

 各社の利益面の現状はどうなっているのか。中部電力の課徴金納付が通期業績に及ぼす影響とは。次ページ以降で詳しく解説する。