農水省が、農業法人などから存在意義を問われる事態となっている。農協改革や農業の産業化に逆行しかねない農政の“憲法”改正に、批判の目が向けられているのだ。特集『儲かる農業2024 JA農水省は緊急事態』(全17回)の#6では、農水省の次期事務次官の本命候補を明らかにするとともに、同省が改革路線に戻れるかどうかに迫る。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)
自民党農林族のドン森山氏から
にらまれない意見しか出さなくなった農水省
農水省への風当たりが強まっている。ダイヤモンド編集部の担い手農家アンケートの回答者で、農水省の政策を評価したのは20%にとどまった。低支持率の要因となったのが「財務省の言いなり」になっていることだ。
やり玉に挙がった政策が、転作補助金の厳格化だ。農水省は5年間、一度も水張りをしない水田には交付金を出さないことにした。
ある農家は「傾斜地など事実上水田でない農地が水田として扱われ、転作補助金が支給されてきたのは確かに問題だ。だが、麦や大豆の増産が求められているときに、せっかく畑地化した乾いた農地に水を入れるのは非効率。食料安全保障に逆行する」と手厳しい。
省内からも「財務省から予算削減を求められて要件を厳格化したが、予算を削るなら、(補助金漬けの)飼料用米への交付金を減らす方が混乱がなかった」(農水省幹部)との声が出ている。
ある自民党農林議員は、「農水官僚たる者、週末は農村へ行き、情報交換するのが常識だったが、自腹で農業者と交流する役人が減った。理想とする政策を実現する熱意を持った人材がいない」と嘆く。
もう一つの非難の的は、「農林族の言いなり」になっていることだ。
その象徴が、食料・農業・農村基本法の改正だ。その旗振り役は自民党の農林族のドンでJAグループに近い森山裕総務会長だ。農水省はこれに追随した格好だが、本来、同省が最優先で取り組むべきことは、基本法の見直しではなく、農業の生産性を高めるための政策だった(基本法の見直しについての詳細は『【元農水次官・緊急インタビュー】“農政の憲法”基本法改正は改革に逆行!食料安保の名を借りた農協の巻き返しだ 奥原正明 元農林水産事務次官インタビュー』参照)。
減反を廃止(飼料用米などへの交付金を大幅に減らすこと)してコメの価格を下げ、輸出を増やす政策や、農地を集積し、大規模化するための政策こそ“本丸”のはずだったのである(コメ輸出についての詳細は、本特集の#2『すき家のゼンショー、豊田通商も乗った「令和の農業維新」コメ500万トン輸出の野望、生産費はキロ65円!』参照)。
前出の農林議員は「農水省は大物政治家からにらまれない案しか出さなくなった。情けない」と政策立案能力の低下を嘆く。
次ページでは、農水省の次期事務次官の本命候補を明らかにするとともに、同省が改革路線に戻れるかどうかに迫る。