大変革にダイバーシティは有効

 大谷副社長が行う大改革に不満をもつ社員が、ときどき大谷本部長室にモノ申したいと会いにきて抵抗を示したようだ。しかし、結局、改革は進み、YKKは現地ベースの企業として大きく変化した。

 当時のことを回顧して、大谷氏は自分が文系出身で機械技術に詳しくなかったことが、逆に良かったのかもしれないと述べている。つまり、そのことが大変革に伴う人間関係上の取引コストを小さくし、ある意味で変革しやすかったのかもしれない。

 これらの事例から、もし企業内の不正や非効率をめぐって大改革が必要なときには、社内重役だけではなく、社外役員、女性役員、そして外国人役員などの人材も必要であり、有効かもしれない。というのも、彼らは変革をめぐる取引コストの小さい人たちだからである。

 それゆえ、大改革が必要な企業は、このような人事制度の構築も必要かもしれない。これは、ある意味でダイバーシティ(多様性)の活用である。多様な人間から構成される集団では、大変革が必要なとき、ゼロベースで議論できるので、有効なのである。

 しかし、話はそれほど簡単ではない。このような取引コストを節約する制度政策は、企業にとって大改革が必要なときにのみ有効だということである。というのも、企業が大改革を必要としない場合、多様なメンバーは逆効果を生み出すからである。

 つまり、このようなトップマネジメント組織では、会社の重要事項を議論する場合、各メンバーは必ずしも会社の現状に詳しくないので、一人ひとりのメンバーに事前に一から会社について説明する必要があるからである。しかも、相互に忖度することなく自由に議論するので、人間関係上の取引コストが逆に高くなり、意思決定に無駄に多くの時間がかかってしまうからである。