外部のコンサルが重宝される理由
菊澤研宗 著
定価1155円
その具体的な事例として、例えば裁判のスピードを速めるために、日本で導入された米国流の裁判員制度が挙げられよう。裁判を行う場合、法律知識をまったくもたない一般市民が裁判員になるので、一から法律上の知識を理解してもらうために時間がかかってしまい、逆に非効率的になっているといわれている。
さらに、企業変革を行う場合、組織内のメンバーだけで改革しようとすると、派閥抗争が起こる可能性があり、その調整・取引コストがあまりにも大きいために、変革できない場合がある。例えば、社内に二つの派閥があり、一方の派閥が社内変革を主導しようとすると、もう一つの派閥は強く抵抗するからである。
この場合、社内取引コストがあまりにも高いので、第三者を利用することが効率的となる。つまり、外部のコンサルティング・ファームを利用して企業変革を行う方が取引コストは小さく、変革が実行される可能性が高い。たとえ、コンサルティング・ファームの改革提案それ自体が内容のないものであっても、それに対する社内の抵抗は弱く、取引コストは小さいので、変革が進められる可能性がある。
以上のような様々な制度政策を通して、組織内の取引コストを節約できれば、組織は合理的不正や合理的非効率といった不条理に陥ることなく、「黒い空気」支配を回避できるだろう。
ただし、このような取引コスト節約制度による制度政策やマネジメントを展開し、それを実行すること自体にまた大きなコストが発生することに注意する必要がある。優秀な人は、このようなコストを幅広くしかも過度に大きく評価する傾向がある。それゆえ、そのコストの大きさを考慮すると、やはり何もしないであえて非効率あるいは不正な現状を維持する方が合理的という二次的な不条理に陥る。こうして、企業は不条理な「黒い空気」に支配され続けることになる。
経済合理的なマネジメントを展開すると、一見、すべてがうまくいくように思えるが、実は合理的な不正という不条理な「黒い空気」に支配されるのである。したがって、経済合理的な方法によって、“完全”に「黒い空気」支配を回避し、空気を清浄化して透明にすることはできないのである。