人生の有限さゆえに生じる
「大胆に行動しなかった」という後悔
――米作家のマーク・トウェインは、「20年後、あなたは、やったことよりもやらなかったことに失望を感じる」という名言を残しています。「安全な港から出帆し(中略)、探検し、夢を見て発見せよ」と。
ピンク マーク・トウェインは正しい。私自身の調査や数々のデータからも明らかだが、先ほども言ったように、人は年を取るにつれて、やらなかったことを悔やむようになる。若い頃は、行動と非行動の後悔の割合が半々だが、年を重ねるにつれて大きな差がつく。後悔に関する研究などまだない時代だっただろうが、マーク・トウェインには先見の明があった。
キャリア選択を誤るなど、行動したことに対する後悔は、仕事を辞めて転職するという道があるが、行動しなかったことを悔やむ気持ちを払拭するのは難しい。例えば、大胆に行動しなかったという後悔も、親交が途切れた人間関係を放置したという後悔も、非行動に対する後悔だ。
前編で述べたが、本を書くために実施した独自のオンライン調査で最多だったのは、人とのつながりや人間関係にまつわる後悔であり、次に多かったのが、大胆に行動しなかったという後悔だ。人間関係の親和性や帰属感、愛情の構築は私たちにとって重要だからこそ、それを怠ると、大きな不快感に襲われる。
大胆に行動しなかったことに対する後悔は、人生の有限さゆえに生じる。永遠に生きられないからこそ、この短い人生をフルに生かして経験を積み、成長したいと考えるものだが、それをやり損なうと、大きな後悔が一生付いて回る。
やらなかったことを悔やむ気持ちのほうが、やったことを悔やむ気持ちより大きいという事実は、後悔に関する研究から判明していることのうち、最も重要な点の一つだ。マーク・トウェインの直感は、まったくもって正しい。
――あなたのホームページには、故スティーブ・ジョブズ氏が2005年にスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチを筆頭に、「卒業式の祝辞トップ5」が挙げられています。「時間は限られている。最も大切なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことだ」というジョブズ氏の名言は、広く語り継がれています。
一方で、若者には、正しい直感の土台になる十分な経験がないことや誰もが天才ではないことを理由に、直感による進路決定はリスクが大きすぎるという反論もあります。例えば、好きな道を歩んだアーティストが中高年になり、お金のない自分に失望し、人生の基盤を築かなかったことを悔やむ場合もあると思います。一方、お金持ちのバンカーが直感に従わなかったことを後悔し、「自分の人生はこれでよかったのか」と悩むケースも考えられます。人生で最も避けるべき後悔は、どちらの後悔だと思いますか。
ピンク 難しい質問だ。前出のオンライン調査で得た後悔に関する教訓が示しているのは「誰もがあらゆるリスクを取るべきだ」ということではない。私が心底、プロのバスケットボール選手になりたかったとしても、実現不可能なことは明らかだった。そうしたリスクは取るべきではない。
とはいえ、私たちの多くはリスクを誇張し、大げさに考えすぎるきらいがある。人間は、リスクの査定が苦手だ。リスクを大きく見積もりすぎるのだ。
例えば、大胆な行動を取らなかったという後悔で多かった、好きな人をデートに誘うというリスクが好例だ。誘わなかったことを悔やむ人があれほど多いとは! 仮に断られても、それだけの話で、人生が台無しになるわけではないというのに。
キャリア選択でも、そうだ。人は一般的に転職や起業のリスクを大げさに考え、リスク回避に走り、冒険をしない傾向がある。