「自動化」推進国である米国。「労働」よりも、ソフトウエアやDXといった「資本」への投資に課される税率のほうがはるかに低い。そのようなテック大国で、経営幹部の多くが今も高度な意思決定への人工知能(AI)活用に二の足を踏み、「直感」に頼るのはなぜか? AI導入のリスクとは? AI失業の憂き目に遭う人の特徴は? テック大手の独占を食い止めるには? オバマ政権下で大統領経済諮問委員会(CEA)上級エコノミストを務め、AIと倫理に関する共著論文もあるニューヨーク大学(NYU)スターン経営大学院のロバート・シーマンズ准教授が、テック化のマイナス面やAI失業リスクの克服法を語る。(ニューヨーク在住ジャーナリスト 肥田美佐子)
ロボットやAIは本当に
人から仕事を奪うのか?
――日米のメディアでは、人工知能(AI)が普及することで失業者増加の懸念がしばしば報じられますが、ロボットもAIも雇用を奪わない、というのがあなたの持論ですよね。そうした懸念は誇張されすぎたものであり、ロボットやAIの普及は多くの場合、雇用拡大につながる、と。
ロバート・シーマンズ(以下、シーマンズ) 例えば、私自身の研究や他の研究の結果から、ロボットを導入した企業では、雇用が減るどころか増えることがわかっています。
人間とロボットは、お互いのスキルや能力を高め合う関係にあるのです。つまり、ロボットは人間に取って代わるのではなく、人間の仕事を補完する存在なのです。
私の専門分野はロボットですが、AIも同様です。もちろん、AIにはさまざまなタイプがあります。産業分野によっても違いますし、セクターによっては、多くの労働者がチャットボットに置き換えられることもあるかもしれません。しかし、大半の場合、AIは人間の仕事を補強します。
私自身、AIに仕事を助けられています。例えば、学生から提出された宿題が、どこかのウェブサイトや別の論文からのコピペでないかどうかを調べるのにAIを使います。自然言語処理(NLP)技術を使ったAIツールですが、それは私の仕事を補完し、能力を高めてくれるものであって、私の仕事を奪うものではありません。
また、メールを書く際、「予測入力」ツールのおかげで、入力したい文字が提示されるのもAIのなせる業です。小さなことですが、時間短縮や手間の省力化に役立ちます。似たようなアプリやソフトウエアは数多く、いずれも仕事の効率性アップにつながっています。
――日米のホワイトカラー層は「仕事がなくなる」などと心配する必要はないということでしょうか?