後悔をバネにして幸せになる方法は?米ベストセラー作家のダニエル・ピンク氏を直撃!「後悔はより良い人生を送るための教師だ」ピンク氏が「クレイジーと言ってもいいほどの数だ」と驚く、多くの人々が抱く「後悔」とは? Photo by Nina Subin

今年最大の後悔は? その後悔を来年にどう生かすべきか? 1年を振り返り、新年の抱負を立てる際にカギとなるのが「後悔の念」だ。2022年2月刊行の『The Power of Regret: How Looking Backward Moves Us Forward』(『後悔の力――過去を振り返ることが、いかに私たちを前進させるか』(仮題、邦訳版刊行予定)を著したダニエル・ピンク氏によれば、後悔は、より良い人生を送るための「教師」だという。独自のオンライン調査で世界105カ国から1万6000人超の「後悔」を集めて分析した同氏は、後悔を4種類に分類する。『後悔の力』をはじめ、モチベーションやタイミングの科学などに関するベストセラーを出し、日本文化にも詳しいワシントンDC在住の同氏が日米文化の差も踏まえ、後悔をバネにして幸せになる方法を伝授する。(聞き手/ニューヨーク在住ジャーナリスト 肥田美佐子)

新著がベストセラー
なぜ「後悔」というネガティブなテーマを選んだか

――『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』(講談社、大前研一訳)や『When 完璧なタイミングを科学する』(講談社、勝間和代訳)に続き、新刊『The Power of Regret: How Looking Backward Moves Us Forward』(『後悔の力――過去を振り返ることが、いかに私たちを前進させるか』(仮題、邦訳版刊行予定)も、ベストセラー入りしましたね。

 なぜ今回は、「後悔」というネガティブなテーマを選んだのですか。

後悔をバネにして幸せになる方法は?米ベストセラー作家のダニエル・ピンク氏を直撃!「後悔はより良い人生を送るための教師だ」Daniel Pink(ダニエル・ピンク)
1964年生まれ。作家。エール大学ロースクールで法学博士号取得。世界各国の組織を対象に経済や経営戦略についての講義を行うかたわら、「ワシントン・ポスト」「ニューヨーク・タイムズ」「ハーバード・ビジネス・レビュー」などに寄稿。『ハイ・コンセプト』『モチベーション3.0』などの著書はベストセラーとなっている。クリントン政権下ではゴア副大統領の首席スピーチライターを務めた。Photo by Nina Subin

ダニエル・ピンク(以下、ピンク) 私自身が後悔の念を抱いているからだよ!

 当初は、おそるおそる自分の後悔を何人かの人たちに話したものだが、私がひとたび口を開くと、誰もが堰(せき)を切ったように、自分の後悔を話し始めたんだ。私が口火を切ったことで、「自分も話していいんだ」というお墨付きをもらったように感じたのだろう。

 私は現在、50代だが、30代では、この本を書けなかった。後悔を掘り下げるだけの経験がなかったからだ。しかし、50代の今なら、「あれをすればよかった」「あんなことをしなきゃよかった」「もっと違う方法ですべきだった」と、あれこれ過去を振り返ることができる。後悔を利用して残りの人生を形作っていきたい、と考えるようになった。

 確かに「後悔」は、人間を嫌な気分にさせるという意味で、ネガティブな感情だ。しかし、私たちは、この感情を誤解している。科学や私自身の調査が物語るように、後悔の念は、人間が何に価値を置き、良き人生を送るにはどうすればいいのかを教えてくれる。

 私がこの本を通して世界中の人々に届けたいメッセージは、後悔には、そうした別の見方があるということだ。後悔から目を背けてはいけない。逆に、ネガティブな感情にさいなまれてもいけない。後悔は、毅然(きぜん)として対峙(たいじ)し、前進の源泉として利用すべきものだ。

――とはいえ、バランスの取り方が難しいですよね。後悔という感情を掘り下げていくと、心を病むおそれもあります。

ピンク 後悔をコントロールしにくいのは、誰もやり方を教えてくれなかったからだ。実際には、それほど難しいことではないのだが……。これまで後悔の扱い方が示されてこなかったことは、日米の文化からもうかがえる。

 例えば、米国では、「常にポジティブであれ」「決してネガティブになるな」「将来に目を向け、過去を振り返るな」といった人生哲学が信奉されている。一方、日本は、「もっとストイックであれ」「後悔というネガティブな感情に襲われたら、無視しろ、気を引き締めろ」といった文化で知られている。

 しかし、どちらの考え方も良くない。真実は、その中間にある。後悔を無視したり、後悔に埋没したりするのではなく、純粋な「情報」として用いるのだ。そうすることで、より良い戦略や明確な思考、より効果的な問題解決が可能になり、人生に大きな意義を見いだせる、という数々のエビデンスが挙がっている。

 後悔をめぐる誤解を正し、その考え方を根底から変える必要があるということを訴えるために、この本を書いた。

――あなた自身は、どのような後悔を感じていますか。