2022年11月16日に開催された「ダイヤモンド・オンライン 経営・戦略デザインラボ」のオンラインイベント「人の可能性を信じ『全員活躍』を実現する組織 ―有識者と考える人的資本経営― 」。その基調対談で、国内のウェルビーイングの第一人者である前野隆司氏(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授)と、協和銀行(現・りそな銀行)やHOYAなど多くの企業で人事改革を実施してきた有沢正人氏(カゴメ常務執行役員CHO)が登壇。前編では、「ウェルビーイング」と人的資本経営の関係や、経営戦略における「エンゲージメント」の重要性について論じられた。(編集/ヴァーティカルメディア編集部 大根田康介、撮影/堀哲平)
「人的資本経営」と密接につながる
「ウェルビーイング」
前野隆司(以下、前野) まず私から、ウェルビーイングと人的資本経営の関係についてお話させていただきます。
ウェルビーイングとは、“体と心と社会が良好な状態”のことで、健康、幸せ、福祉、これらを包み込む概念です。
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。1986年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了後、キヤノン入社。93年博士(工学)学位取得(東京工業大学)、95年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)教授。11年4月から19年9月までSDM研究科委員長。90年~92年カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、01年ハーバード大学Visiting Professor。著書に『幸せな大人になれますか』(小学館)、『ディストピア禍の新・幸福論』(プレジデント社)、『ウェルビーイング』(日経BP)、『感動のメカニズム』『幸せのメカニズム』(ともに講談社)、『幸せな職場の経営学』(小学館)など。
「ハピネス」というと感情的に幸せな状態で、「幸せ」よりも少し小さな概念になります。「幸せ」とは、つらいこともあったけど幸せな人生だったという意味も含み、「ハピネス」よりも広い。
これに対し「ウェルビーイング」というのは、さらに健康や福祉も含みますから、「ハピネス」や「幸せ」よりも大きな概念だといえます。
「ウェルビーイング」については、最近、自由民主党が上野通子参議院議員を委員長とした「日本Well-being計画推進特命委員会」を立ち上げたり、あるいは私が代表理事を務める「ウェルビーイング学会」が2021年に設立されたりするなどさまざまな活動があります。
一方、「人的資本経営」については、一橋大学名誉教授の伊藤邦雄先生が中心になって推し進めています。そこで伊藤先生は「人的資本経営の中心はウェルビーイングだ」とおっしゃっています。つまり、人的資本経営というのは、人がより幸せに生き生きと働いてこそ企業の価値は高まる。これを可視化して、投資家にも分かりやすい経営をしていこうということです。
そのため、ウェルビーイングは人的資本経営と密接につながっている概念だと思います。
「主観的ウェルビーイングスコア」が高い人は、やる気があり、成長意欲が高い。また、利他的であり、「つながり」が非常に張り巡らされている。多様性を大切にしながら、多様な人々とダイバーシティ&インクルージョンの関係で働いている。あるいは健康である。こういったことが、世界中のウェルビーイング研究者によって明らかにされており、これらはすべてエビデンスがあります。
それをより高めようというのが、最近でいえば人的資本経営であり、あるいは以前からある、働き方改革や健康経営、エンゲージメントといった概念です。
私のようなウェルビーイング研究者から見ると、人的資本経営も、働き方改革も、エンゲージメントも、健康経営も、すべてがつながっているんですね。そしてその根本には「ウェルビーイング」があります。
社員がにこにこしながら、それほどきつくない仕事だけをする。そんなゆるい働き方がウェルビーイングだと誤解されることもありますが、決してそうではありません。
社員が生き生きと、やる気も成長意欲もあり、利他的で、「みんなのために働きたい」と思っている。とても活気があり、会社のために、また、自分の人生のために力強く働いている状態が、ウェルビーイングです。なので、みなさんにはぜひ誤解のないようにお願いしたいです。