多様な意見とイノベーションが生まれる関係を見つめ直す、「デザインディスコース」の可能性

多様な視点が新しい価値を生み出すという認識が一般化し、外部の意見を聞く機会を開発のプロセスに組み込むことがあたり前になっています。しかし、批判的な意見を軽く扱う、都合のいい形で反映するなど、手段が目的化しているケースも多く、それを効果的なものにすることは簡単ではありません。仕組みとして注目したいのがミラノデザインの生態系ともいうべき「デザインディスコース」です。「意味のイノベーション」に欠かせないこのプロセスについて、日本企業が考慮すべき点とあわせて解説します。

【お知らせ】ロベルト・ベルガンティ教授による『「意味」のイノベーション』の特別講座(有料)がオンラインで視聴できます。詳しくはこちらから

新しいコンセプトが生まれる「デザインディスコース」

 イノベーションには二つあり、一つが目的地に向かう方法を改善するイノベーション、二つ目が目的地を変更するイノベーション。後者が「意味のイノベーション」に相当し、ここで必要とされるステップに「デザインディスコース」があります。現実を多様に解釈するための基盤といえます。今回はこのテーマについてお話しします。

 意味のイノベーションの意義や方法を記した『突破するデザイン』(日経BP)は、ロベルト・ベルガンティの2冊目の著書です。1冊目は『デザイン・ドリブン・イノベーション』(クロスメディア・パブリッシング)。両方の著書で取り上げているのが「デザインディスコース」という概念です。正確に言えばデザインディスコースは1冊目の言葉であり、2冊目では「解釈者ラボ」が対応します。

 二つの言葉は実質、同じことを指しています。ですが、言葉の違いに合わせて全体プロセスでの位置が違います。私の経験に基づいた解釈を書いていきましょう。まず、デザインディスコースをベルガンティは、次のようなチャート(図1)で示しました。

多様な意見とイノベーションが生まれる関係を見つめ直す、「デザインディスコース」の可能性図1:デザインディスコースの概念図
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 企業が中心にあり、デザイナー、アーティスト、ユーザー、研究者などおのおの異なった分野の人が相互にコミュニケーションする様子を表しています。あるビジョンなりコンセプトなりを決めていくに当たり、こうした人たちとの交流あるいは会話が役に立ちます。このチャートを初めて見たとき、私は「ミラノデザインの生態系そのものだ!」と即座に思いました。私自身がこの輪の中にいて、新しいコンセプトがなにげない雑談によって生まれてくるのを日常生活で味わっていたからです。具体的な場としては、友人たちを招いた自宅での夕食、街中のバール、あるいはアートの展覧会のオープニングなどです。これらの機会がたくさん詰まっているのが、毎年4月にイタリアで開催されるミラノデザインウィークです。