かつては60代で定年退職を迎えれば、あとは“余生を過ごすのみ”だった。しかし、平均寿命が延びている現代では、その後20年以上も人生が続くことも。『定年1年目の教科書』(高橋伸典/日本能率協会マネジメントセンター)はタイトルにある通り、定年後のセカンドキャリアを生きる人々に寄り添う実用書となっている。著者の高橋氏に、定年後の仕事や生き方について話を聞いた。(清談社 真島加代)
60代が抱える
漠然とした不安の正体
社会に出て40年もたつと身近に感じる“定年退職”。定年退職後の生活がイメージできない、あるいは、定年退職したばかりで今後の身の振り方がわからない、という人もいるだろう。『定年1年目の教科書』は、そんな人々の疑問に答える一冊だ。
「定年退職を迎えた人の多くが『これから何をすればいいのかわからない』という不安を抱えています。働き盛りに感じる、お金や仕事を失うことへの不安ではなく“なんとなくモヤモヤする”という感覚がもっとも近いですね」
そう話すのは同書の著者で、セカンドキャリアコンサルタントの高橋伸典氏(「高」は正しくは「はしごだか」)。とくに現代の60代が抱える不安は、彼らが過ごしてきた時代と深く関わっているという。
「私を含めて、今60代のサラリーマンは『会社一筋』で働いてきた人がほとんど。転職や副業がしやすい今と違い、長年ひとつの会社に貢献して、そのなかでステップアップしていくのが一般的な世代です。ほかの会社や仕事を経験せずに定年退職するため、『これから一体何が起きるんだろう』という、未知に対する不安を強く感じているんです」
政府すらも「70歳まで定年引き上げ」を推奨している令和において、60代は現役。一方、定年で職場を去る人々の多くはこれから、60代にして“新天地での再スタート”を切らなければならない。それはまさに、彼らに残された試練だという。
「ぼんやりと不安を感じているなかで、多くの人にわかりやすく響いたのが『老後2000万円問題』でした。そのため、お金に対する不安に目がいきがちですが、本当に怖いのは“老後の孤独”です。高齢者の孤独・孤立は認知症のリスクを高め、健康寿命も縮めるといわれています。健康であれば社会とつながりながら働き、お金も孤独の不安も解消できますが、病気になればそれも難しい。お金だけでなく、健康維持や孤独の解消に、もっと目を向ける必要がありますよね」
まずは自分の不安と向き合い、その正体を明らかにするのが定年1年目の課題となるという。