開成、麻布、桜蔭、雙葉、筑駒、渋幕……東京・吉祥寺を中心に都内に展開する進学塾VAMOSは、「入塾テストなし・先着順」で生徒を選抜しないが、「普通の子ども」を有名難関校に続々と合格させると話題の塾だ。子どもの特徴を最大限に生かして学力を伸ばす「ロジカルで科学的な学習法」が、圧倒的な支持を集めている。本稿では、VAMOSの代表である富永雄輔氏の最新刊『ひとりっ子の学力の伸ばし方』(ダイヤモンド社)から、特別に一部を抜粋して紹介する。

ひとりっ子の親ほど育児ノイローゼになりやすいワケPhoto: Adobe Stock

ひとりっ子の親ほど育児ノイローゼになりやすい

 家事も育児も一人でこなさなければならない「ワンオペ」が問題になっています。そして、家事や育児の苦しみを訴えるのは、ひとりっ子の母親に多いのです。

 普通に考えたら、子どもの数が多いほうが大変そうです。しかし、多くの子どもを抱える親は、「悩んでみたところで子どもは思うようにはならない」ということを、経験的に知っているのでしょう。それに、慌ただしすぎて悩んでいる時間すらないのかもしれません。

 一方で、ひとりっ子の親は、その子の成長にすべての時間を集中できます。本もたくさん読んで、高い理想を持っています。ところが、子どもは理想どおりになりません。

 すると、「どうして?」で頭がいっぱいになってしまうわけです。

 こうしたミスマッチは、乳児期だけの問題ではありません。子どもが幼稚園に入り、小学校に入り……と成長していく過程でも、親の「どうして?」は続きます。

 実際に、VAMOSに入塾を希望する小学生の親と面談していると、「自分の子どもが考えていたように育たない」という声をとても多く耳にします。そもそも、子どもの成長を親がコントロールできるものだと信じているのです。

子育てに悩んでも自分を追い込まない

 親が「どうして?」と悩む一番の理由は、その理想の高さにあります。

「これだけやってあげているのに、この子はどうして結果を出せないのでしょう」と訴える親もいて、彼らはあたかも原因が子どものほうにあるように思い込んでいます。しかし、それは逆なのです。

 親が現実とはかけ離れた理想を追って、子どもに過大な期待をかけているからミスマッチが起きているだけです。

 こうした状況について、ひとりっ子の親はとくに注意が必要です。子どもに対し、いろいろできる環境にあるから、自分の理想であれやこれやと手をかけます。しかし、子どもには子どもの能力や性格があり、親の理想としているところにはいけないのです。

 しかも、ひとりっ子のほうは親に手をかけてもらうことが当たり前になっており、自分が恵まれているかどうかなどわかりません。だから、「これだけやってあげているのに」という親の思いは、そもそも空回りしています。

 もちろん、親なら誰でも、子どもにいろいろ理想を描くのは当然です。それでも、2人目以降になると「理想どおりにはいかない」ということが前の経験からわかってきます。

 それに、子どもにかけられる時間もお金も限られることもあって、現実的にならざるを得ず、自ずとギャップが埋まっていきます。

 たとえば、送り迎えが必要な習い事について、長男と次男の曜日がかぶれば、どちらかを我慢させるとか、違う曜日に変えさせるといった調整が必要になります。あるいは、経済的理由から、長男にも次男にも全部やらせることはできないということもあるでしょう。

 こうして、あらゆることに関して、その都度、妥協しているわけです。

 ひとりっ子の親にも妥協は必要です。子育てで上手くいかないことがあったときに、自分を追い込まないでください。また、親がやってあげられることのラインに、無理やり子どもを持って行こうとせず、落としどころを探ってください。

自分の子どもを客観視する

 ひとりっ子の親に求められるのは、妥協も含めての柔軟な軌道修正です。

 ただ、それをするためには「納得」が必要です。そして、納得するためには客観的な理解が欠かせません。

 わが子について客観的に理解するには、比較対象を持つことに尽きます。その比較対象とは、立派な子育て本に書いてある内容ではなく、生身の子どもたちです。

 2人目以降の子どもなら、何事につけ「お兄ちゃんより遅い」「お姉ちゃんより早い」ということがわかります。そういう経験を持たないひとりっ子の親は、外にどんどん比較対象を探してください。

 大げさなことをしなくて大丈夫です。早い時期から習い事をさせたり、公園で遊ばせたりするのでもいいでしょう。軽い気持ちで子どもをあちこちに連れて行き、そこにいる同年代の子どもたちと比べてみましょう。

 そこでは、優劣をつける必要などまったくありません。「こんな子もいるんだ。あんな子もいるんだ」と見ておくだけで気持ちが軽くなるでしょう。

 今は色々なところで「自分らしく生きる」ことが強調されているので、「比較対象を持つ=誰かと比べる」ことは否定的に捉えられるかもしれません。しかし大事なことは、自分の子どもの特徴を客観的に知ることであり、そのためには、一定の競争をさせることも必要です。

 こと受験において、自分がどういう立ち位置にいるのか把握することはとても大事です。中学受験でライバルになるのは、周囲にいる同年代の子どもたちです。そういう子どもたちを見て、自分の子どもが今どこにいるのかを正しく理解し、柔軟に軌道修正していきましょう。

(本稿は、『ひとりっ子の学力の伸ばし方』からの抜粋・編集したものです)