65年という国内屈指の歴史を持つ経営コンサルティング会社であるタナベコンサルティンググループ(TCG)が、今まで蓄積された企業変革と持続的な成長のノウハウを解説した一冊『チームコンサルティング理論-企業変革と持続的成長のメソッド』を刊行しました。本連載では、第1回目に「知る・選ぶ・行動する」の三つのサイクルについて、第2回では「知・選・行」の戦略サイクルから「選ぶ〈価値判断基準〉」「行動する〈突破口〉」のフェーズについて解説してきました。連載第3回となる今回は、企業再生のアプローチについてご説明します。
有事の経営処方箋
1 企業再生アプローチ―会社はつぶれるようにできている
医療の世界では「早期発見・早期治療」が健康管理の大前提である。症状が出てから治療に動くのではなく、事前に病気の芽を摘んでおくことが重要だ。そのために、人は定期的に「人間ドック」を受診して自分自身の健康状態をチェックする。
人間ドックでは各診療科目の検査・健診結果や臨床検査技師の所見をもとに、専門医が話し合って総合判定を下す。問題や病気の疑いがあれば受診者に再検査・精密検査を促し、その結果病気が確定した場合は担当医が丁寧に問診を行い、過去の臨床事例に基づいて治療方針を決め、患者(クライアント)に的確なアドバイスと処方箋を交付する。複数の専門医による合議制で治療にあたる(複数主治医制)とともに、複数の専門職スタッフが連携する「チーム医療」を実施する。そして退院後は経過観察を行い、回復具合の確認や保健指導によってクライアントの健康維持を図る。これが総合病院の提供する医療サービスだ。これをビジネスの世界に置き換えて、企業の健康維持のためにタナベコンサルティンググループ(TCG)が提供しているのが「チームコンサルティング」である。
チームコンサルティング理論は、企業が自社の経営課題を早期発見・早期対応し、持続的成長を図るための経営メソッドである。いわば「未病(発病には至らないが健康状態から離れつつある状態)」を予防するための手法である。ドメイン(事業、業種)、ファンクション(組織、機能)、規模(資本金、従業員数、年商)、症状(在庫過多、人材不足、下請け体質など)によって重点の置き方は異なるが、コンサルティングの進め方は基本的に変わらない。
ただし、営業赤字や債務超過など事業再生・経営再建を図る企業の場合、知・選・行サイクルとは別の緊急措置を講じる必要がある。具体的には、キャッシュフローの好転に向けたターンアラウンド(事業再生)型コンサルティングによって、短期間で持続的にキャッシュフローを生み出す企業体質を構築することが急務となる。とりわけ再生の絶対条件となるのは「スピード」だ。孫子の兵法に「兵は拙速を聞くも、いまだ巧の久しきを睹みざるなり」という原則がある。戦争においては、作戦がまずくても早く決着した例は聞くが、巧みな作戦で長期化した例は見たことがない、という意味である。
赤字企業の再生にも同じことがいえる。だらだらと時間をかけて改革が成功した例は少ない。赤字は一期で一気に消すことが大事である。
赤字という症状に対する再生・再建策は、チームコンサルティング理論の文脈とは異なる領域であるが、万一の際の備えとして再生への処方箋についてここで触れておきたい。具体的には、「再建・再生・成長」の三ステップを描き、できるだけ早く成長軌道に乗せることが重要なポイントである(本書P.72図表2‒3)。