65年という国内屈指の歴史を持つ経営コンサルティング会社であるタナベコンサルティンググループ(TCG)が、今まで蓄積された企業変革と持続的な成長のノウハウを解説した一冊『チームコンサルティング理論-企業変革と持続的成長のメソッド』を刊行しました。連載第2回の今回は、第1回で説明した「知・選・行」の戦略サイクルから「選ぶ〈価値判断基準〉」「行動する〈突破口〉」のフェーズについて解説させていただきます。
2 選ぶ〈価値判断基準〉:正しく選ぶ基準
――値判断基準が貢献価値をつくる
問題の本質がわかれば、次のフェーズはそれを解決するための対策を検討しなければならない。ただし、実行するうえで最も良い方法を選択する必要がある。また選択するためには、「選択の基準」を持たなければならない。そしてコンプライアンスの観点から、正しい選択をする仕組みも忘れてはいけない。
企業経営は高度の選択である。つかんだ問題の本質を解決する手段は、いくらでもある。しかし、そのすべてについて行動を起こすことはできない。そのなかから、最も効果的な手段を選び出す必要がある。成功した経営者は異口同音に「運が良かっただけ」と述懐するものだが、運の前に自身の「選択」があったのである。
山の奥で湧き出た沢水の流れは、途中で幾多の障害物に突き当たる。左に右に分化する。ここに選択が起こる。たまたま一方の選択に入った水流が次々と本流につながり、やがて大海へと注ぐ。もう一つの選択に入った水流は、沼地に入ってそこで終わる。
「百川(ひゃくせん)海に学んで海に至る」(すべての川は海を目指して流れ、最後に海へ注ぐように、人も立派な人物を手本に努力すれば大業を成し遂げられる/「揚子(ようし)法言(ほうげん)」)か、「水の流れも澱(よど)めば腐る」(企業経営も新しい流れがなければ衰え、進歩が止まってしまう/松下幸之助)か。
いずれにせよ、運とは流れに乗って運ばれることだ。流れに乗らなければ、どんなに潜在能力が高くても成功に至ることはない。そしてその過程においては、偶然のように見えても必ず選択がつきまとう。問題は、どのように選択するかである。これを決めるものが「価値判断基準」だ。価値判断基準とは、有事の際に、自社にとって今何が一番大切かを的確に判断(決断)するための基準である。価値判断基準のズレや誤り(ピントが合っていない)、また優柔不断などの症状があれば、価値判断基準を整理し、磨きをかけ、高い水準に高めなければならない。
したがって、自社はどのような価値に最も重きを置くべきかを再定義し、価値判断基準の体系をアップデート(更新)する必要がある。具体的には、創業精神や経営理念、ビジネスモデルの構成要素、すなわちバリューチェーンから見た強みといった自社の原点に立ち返り、自社の「貢献価値」を明らかにする。
“貢献価値”とは、自社商品によって顧客や社会が抱える問題の解決に貢献する価値、言い換えれば、社会や顧客が求めている“コト”と自社の持ち味(自社らしさ)の接点であり、自社の存在価値でもある。その貢献価値に基づき、自社の価値判断基準となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の体系を整理していく。具体的には、貢献価値を導くミッション(使命)、ビジョン(あるべき姿)、バリュー(行動規範)は、経営理念(フィロソフィー)が原点となる。
自社のケイパビリティ(企業成長の原動力となる組織的能力や強み)は、創業精神と経営理念、バリューチェーンから生まれる。このうちバリューチェーンについては、「善循環」の視点から見直していく。“善循環”とは事業活動を通じて顧客に貢献することで、顧客が顧客を呼ぶバリューチェーンであり、会社や業務に対する外部の信用や満足度を累積拡大させるサイクルのことである。DXの時代は、このバリューチェーンによる体験価値(エクスペリエンスバリュー)を、デジタルとリアルとのハイブリッド(混合)でデザインすることが重要である。
すべてのステークホルダーに配慮しながら、経営のあらゆるプロセスを有機的につなげ、顧客が新たな顧客を呼ぶサイクルをつくり上げていく。現在はESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)などの観点も含めて「自社の事業を通じて世界(社会)の持続的成長にどのように貢献するか」という貢献価値へと昇華させる必要がある。その過程においては、他社とのアライアンス(戦略的提携)やM&A(企業の合併・買収)を活用したネットワークを構想する判断も必要となる。