スタートアップの新資金調達法「ベンチャーデット」台頭、銀行融資と異なる3つの特色Photo:PIXTA
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

 これまでベンチャー企業の資金調達は、主として株式をはじめとするエクイティー性の資金により行われてきた。他方で、米国や欧州のスタートアップでは、ベンチャーデットと呼ばれる負債性の資金調達が増えている。わが国でもスタートアップが事業全体を担保に金融機関から成長資金を調達できる「事業成長担保権」の創設がうたわれ、急速に関心を集めている。本稿では、ベンチャーデットの特徴とわが国における可能性について、昨今の事業成長担保権を巡る議論も視野に入れつつ検討する。

株式希薄化を回避するベンチャーデットの活用

 米国と欧州におけるベンチャーファイナンスの市場規模は、2018年において、米国が約900億ユーロ、欧州が約210億ユーロであり、そのうちベンチャーデットの割合は、米国が15%、欧州が5%とされる(注1)。21年で見ると、米国のベンチャーキャピタル(VC)が支援する企業が受けた資金調達3,415億ドルのうち、デットによるものはその10分の1弱、331億ドルとのことである(注2)。このように、ベンチャーデットは多くの場合、VCからのエクイティー性の資金調達を補完する位置付けにある。

 ベンチャーデットによる資金調達を受ける場合、ベンチャー企業は、定期的な元利金の支払い義務を負う一方、創業者やVCが保有する株式の希薄化を回避できるという利点がある(注3)。

 また、ベンチャーデットは、ベンチャー企業がエクイティーで調達した資金にレバレッジをかけ、資金調達の平均コストを下げる効果もある。ベンチャー企業の場合、一般に、そのリスクプロファイル故に株式の期待収益率は高くなりがちで、負債の方が(信用力の乏しさ故に高めの金利が求められたとしてもなお)調達コストが低いと判断され得るわけだ。