保険の国際機関IAIS「事務局長選挙の裏側」、大穴だった私が勝利できた秘密Photo:PIXTA
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

 国際機関の要である事務局長は組織を動かす中心となる。その選出は国際機関の最重要事項の一つであり、究極の国際交渉であり、国際機関の在り方がそこに凝縮されている。そもそも事務局長とはどのような役職なのか、どのように国際機関の事務局長選出が行われるのか、事務局長選出はどのような過程で、どのような戦いがあるのか。これらは関係者以外にはベールに包まれた世界である。保険監督者国際機構(IAIS)の事務局長選出選挙において、誰もが筆者が負けると確信していたにもかかわらず勝利した過程を振り返りながら、これらのベールを解き明かしたい。

2人に絞られた候補者

 国際機関はその加盟国がメンバーであり、その代表が集まって意思決定をする。メンバー国の代表は、自国で要職を務めながら、国際機関の活動に参画している。会社組織でいえば非常勤の取締役の役割である。

 フルタイムでの経営や業務運営は事務局が行う。事務局長はその組織運営の最高責任者であり、会社で言えばCEO(社長)である。事務局長はメンバー国の代表から構成される組織の最高意思決定機関(取締役会)が決定するもので、メンバー国の規制当局の幹部から選出されるのが通例である。規制当局の幹部は業務知識が豊富で経営能力が高く、メンバーとの信頼関係もあるので、国際機関の経営を委ねるのに最適だからだ。

 金融関連の国際機関の歴代の事務局長はほぼ欧米人が務めてきた。金融安定理事会(FSB)、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)、証券監督者国際機構(IOSCO)、IAISの歴代の事務局長を見ても、日本出身は氷見野良三氏(東京大学公共政策大学院教授、元金融庁長官)と筆者だけである。

 日本の規制当局からの参加者は2年程度の短期間で異動することが多い。そのため、少なくとも4、5年は継続して参加することの多い他国の当局者と比べると、国際機関の中で信頼を勝ち取るための期間が限られ、競争上不利である。

 では、その国際機関の事務局長がどのように選出されるのか、筆者の実例から見てみよう。

 IAISは、150カ国の保険規制当局者からなる保険の国際規制基準制定主体である。その初代事務局長クヌット・ホーフェルド(元ドイツ保険監督庁長官)が引退することが決まった2002年初頭に、次の事務局長の選考が始まった。多数の候補から書類選考で最終的に2人が残った。しかし、どちらが選ばれるかは選考結果を待たずとも明らかとみられていた。