農業の生産性向上に向けて、先端技術やデジタル技術を駆使した農法「アグリテック」を手掛けるスタートアップが台頭している。ドローンを活用した農薬の自動散布、農地の遠隔モニタリング、ロボットを活用した自動収穫など、その領域は多岐にわたる。これらの事業に取り組む新興企業は近年、大企業によって買収されたり、農業ビジネスに注目する投資家から出資を受けたりする例が増えている。その動向を詳しく解説する。(EYストラテジー・アンド・コンサルティング パートナー 篠原 学、茂森功祐)
人口増・高齢化・温暖化…
「三重苦」の農業を最新技術で救え
人口増加や少子高齢化、気候変動などを背景に、農業の生産性向上がグローバルレベルでの社会課題となっている。
人口増加においては、世界人口が2050年まで年率0.8%で増加し、中流層の拡大による食料ニーズの増加が見込まれている。食料ニーズは2005年と2050年対比で70%増加するとも予測される。
また、少子高齢化が進む先進国では1次産業従事者が高齢化し、小規模事業者が今後消滅するとの見方がある。
一方、地球温暖化や都市化の進行に伴い、アジア・アフリカの発展途上国では農業可能エリアが縮小中だ。両地域では、2030年にかけて2%前後の農地が失われる見込みである。
他にも、地球温暖化による天候の不安定さは作物の疫病増加を招き、世界中の作物収穫量に影響を与えている。特に2050年にかけては、アフリカ・インド・東南アジアを中心する地域で作物収穫量が落ち込むとみられる。気候変動の影響を大きく受ける地域は、貧困率や食料不安の高い地域と重なる。
このように、農業は1次産業の中では特に外的環境に左右されやすい。その中で、生産性をいかに維持し、改善していくかは世界的に重要度の高いテーマだといえる。
こうした課題の解決に向けて、先端技術やデジタル技術を駆使する「アグリテック」と言われるスタートアップがグローバルレベルで台頭している。
例えば、ドローンを活用した農薬の自動散布、農地の遠隔モニタリング、ロボットを活用した自動収穫、農耕機の無人化、AIを活用したデータ分析による生産性改善などが、アグリテックとして挙げられる。
これらの事業に取り組む新興企業は今、大企業を巻き込んだM&A(企業の買収・合併)や提携を活発化している。農業領域に注目する投資家や、既存の農業プレーヤー(農機メーカーや化学メーカーなど)から資金調達を得るケースも増えている。
日本の農業機械大手であるクボタや、ペプシコーラで知られる米PepsiCo(ペプシコ)なども、アグリテックベンチャーとの提携や出資を行っている。
こうした大企業とスタートアップの連携のトレンドを、近年の事例を踏まえて解説する。