地下鉄の固定観念を
揺さぶる長野電鉄の魅力

 地下鉄のもう一つの定義に、「地下鉄補助」スキームの適否がある。これは莫大な地下トンネル建設費を全額負担すると事業として成立しないので、建設費(車両費等は除く)の7割を国と地方が折半して負担することで、整備を支援する仕組みだ。

 ただこれは新線建設の話で、既設線の改良は含まれず、そもそも対象は公営事業者(現在は第3セクターなども含まれる)に限られている。既設線の地下化は東急新玉川線(田園都市線渋谷~二子玉川間)の事例があるが、これは鉄道建設公団が資金を調達して新線を建設し、工事費を分割払いする「P線方式」で整備された。しかし、これは鉄道主体の設備改良であり、今回のケースにはそぐわない。

 一方、連続立体交差事業は既設線の改良を目的とした制度であり、高架化事業費の約9割を国と地方、約1割を鉄道側が負担する。鉄道の負担はわずかだが、これは、立体化は道路側の事情であり、巻き込まれる鉄道の負担は受益分に限るという観点から設計された制度だ。

 もし地下鉄を整備する場合、公営地下鉄として建設するのであれば国の補助金を除く全額を地方が負担し、既設線を改良するのであれば連続立体交差事業として事業費の多くを負担する。スキームの違いはあれど、結局、都市にやる気と資金があるかどうかの問題と言えよう。

 長野電鉄の地下区間は地下鉄かという問いに対しては、性質と成り立ちは地下鉄であると言って差し支えないだろう。それでも違和感があるとすれば、日本では都市高速鉄道という観念が希薄で、非常に限定された「地下鉄」という概念が強いからだろう。

 そんな固定観念を揺さぶってくれる長野電鉄はやはり興味深い。東京メトロでは2008年からロマンスカーの千代田線乗り入れが始まったが、長野電鉄では2006年からロマンスカー「ゆけむり」を運行している。しかもこちらは本家にはない展望席までついており、特等席でトンネル内を堪能できる。長野にお出かけの際はぜひ体験してほしい。

「地下鉄か否か」論争も紛糾!中小私鉄“長野電鉄”の歴史と魅力とは長野電鉄が2006年から運行を始めたロマンスカー「ゆけむり」では、展望席でトンネル内を堪能できる(筆者撮影)