ロシアと中国が限界を露呈、世界には今「コンパクト民主主義」が必要だPhoto:Manuel Augusto Moreno/gettyimages

先の世界大戦や東西冷戦を経て、人類は世界平和の重要性を学んだはずだった。だが現代では「国家」が再び国際社会の発展を阻害し、人々の生命と財産を奪いかねない存在になっている。いまだにロシアはウクライナへの侵攻を続け、中国は台湾への軍事侵攻を示唆している。ウクライナ紛争における「正義の味方」と思われがちなNATOですら、紛争を利用してロシアを弱体化させたいという思惑が透けて見える。このような状況を変えるには、従来の中央集権体制ではなく、地方自治体や中小規模の国家・地域による「コンパクト・デモクラシー」が必要ではないか。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)

国家は国民を豊かにするのではなく
苦しめる存在に

 2022年という激動の1年を振り返って、思ったことがある。それは「国家」が再び、国際社会の発展を阻害し、人々の生命と財産を奪いかねない存在になり下がったということだ。

 22年2月、ロシアはウクライナへの軍事侵攻に踏み切った。だが、民主化の進んだウクライナによる予想外の抵抗に遭い、戦争は泥沼化している(本連載第298回)。

 欧米は、ウクライナに対して武器を供与するなど支援を続けるとともに、世界的な送金システムの要である国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアを排除するなど、強力な経済制裁を発動している(第297回・p5)。

 これを引き金に、原材料高・資材高が発生し、世界的にインフレが進んだ。各国・地域の中央銀行がインフレ解消のために動いたが、物価上昇率の高止まりは解消できず、世界経済の混乱が続いている。

 これまで、国際社会は経済のグローバル化の中で「国際分業」を進めてきた。国際分業とは、互いの国で得意なものを生産し、輸出入し合って互いの国の経済を支え合う仕組みだ。

 この仕組みの中で、ロシアは石油、天然ガス等を中心とする資源をさまざまな国に安定供給する役割を担ってきた。ウクライナ戦争が勃発する前、ロシアは資源の輸出を「政治的」に利用することはなかった(第297回・p3)。

 特に、ロシアが天然ガスのパイプラインを国際政治の交渉手段として使ってきた歴史はほとんどない(第84回・p3)。ロシアはソ連時代から、欧州諸国にとって最も信頼できるガス供給者であった。

 だが、ロシアはウクライナを侵攻したことで、資源の安定供給者として積み上げてきた信頼を自ら壊してしまった。また、世界の穀倉地・ウクライナを破壊したことで、一部の国・地域を食糧危機に陥れてしまった。

 世界経済にも打撃を与えており、ロシアが失った信頼の大きさは計り知れないと言わざるを得ない。