岸田文雄首相が打ち出した、防衛費増額の財源を得るための増税策が大きな波紋を呼んでいる。これまで日本の政治家が議論をおろそかにしてきた二大課題である「増税」「安全保障」が重なったのだから、大騒ぎになるのも無理はない。筆者はこの問題において、岸田首相が防衛増税の対象とする税目を「法人税」「所得税」「たばこ税」に限定している点や、専守防衛の原則を守ったまま「敵基地攻撃能力」を持つと主張している点に違和感を持った。その要因と、日本政府が真に議論すべき点について解説する。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
「防衛増税」を打ち出しながら
税率と時期を伏せる曖昧さ
岸田文雄内閣は12月16日、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」からなる、新たな「防衛3文書」を閣議決定した。
この文書では、ロシアによるウクライナ侵攻や、台湾有事のリスクなどで急変した日本の安全保障環境を「戦後最も厳しい」と位置付けた。そして、戦後の安全保障政策を転換し、「自立した防衛体制を構築」すると明記した。
具体的には、相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」を保有するほか、2023~27年度の5年間で防衛費を総額43兆円(現行計画の約1.5倍)に増やし、その財源を確保するための増税を行う方針も打ち出した。
この増税の対象として、岸田首相は「法人」「所得」「たばこ」の3税を充てる方針を示し、増税の実施時期は「来年決定する」とした。
これまで「敵基地への攻撃手段を保持しない」と説明してきた政府方針を抜本的に変え、防衛費を大幅に引き上げる新方針は、戦後の安全保障政策を大きく転換するものである。
しかし、この「防衛増税」の議論は迷走し、野党だけでなく自民党内部からも反発の声が上がっている。中でも、高市早苗経済安全保障相が、経済への悪影響を指摘して首相の方針を批判した事案は大きく報じられた。
さらに自民党内では、増税によって来春の「統一地方選」に影響が出ることを不安視する声も上がっている。
萩生田光一党政調会長らは防衛費増額の財源として「国債の発行」を主張したが、岸田首相は結局、税率と実施時期を曖昧にして反対派を説得したとみられる。
このように、国民の生命を守るための安全保障政策について、一国の首相が「増税による財源確保が必要」と主張しながら、実施時期を伏せてお茶を濁したことは無責任ではないだろうか。
また、防衛増税の対象となる税目を「法人税」「所得税」「たばこ税」としたのも大衆迎合的だ。