池上彰Photo by Takahiko Hara

ウクライナ侵攻を続けるロシア。プーチン大統領は当初「3日で終わる」とみていたものの、まもなく1年になる。ジャーナリストの池上彰氏と増田ユリヤ氏が、プーチン氏の犯した「大誤算」と停戦・休戦の行方について語った。(ジャーナリスト 池上 彰、増田ユリヤ 構成/梶原麻衣子)

ロシアの自動車は
半導体不足で「走る棺おけ」に

池上 当初は「3日で終わる」とも言われていた、ロシアのウクライナ侵攻。今年2月24日に、侵攻から1年の節目を迎えます。これは完全にプーチンの誤算です。

増田 まだあと数年は続くとみる専門家もいますね。侵攻から1年になるのを前に、英米独をはじめとするNATO側、西側諸国がウクライナへ新型戦車の供与を表明するなど、支援も新たな段階に入りました。

池上 英国国防省の指摘では、ロシアも最新式戦車「T14」を、ここへ来て初めてウクライナ戦線後方の地域に配備したようです。「T14」は世界的に見ても英米の最新式をしのぐ性能を持つといわれていますが、ロシアはなぜ、そんな高性能の戦車を今まで実戦投入しなかったのか。

 西側に奪われれば、分析されて性能やシステムが明らかになりますから、ロシアとしては戦場にまだ出したくはなかったのでしょう。あるいは、戦場に出せるほどの台数を確保できていなかったからではないかとの見方もあります。

 ロシアは2014年からの経済制裁で半導体不足に陥り、生産する自動車に安全装置を十分に搭載できないために、「走る棺おけ」と言われる事態になっています。とはいえ、半導体不足でもロシアには約1万両の旧式戦車が保管されており、圧倒的な物量でウクライナに応戦すると思われていました。

 しかし、高性能の半導体が使われている「T14」を投入するということは、まさに「虎の子」の戦車を実戦配備せざるを得ないところまで追い詰められているということです。

増田 欧州は日本とは違って、見渡す限りの大平原ばかり。実際に行ってみると、「戦車がどっと押し寄せてくる」場合の恐怖心は想像を絶するものがあるのでしょう。

池上 戦車はもともと、欧州大陸やユーラシア大陸での戦争用に開発されたものですからね。ハイテク技術の粋を集めた兵器にも、歴史的な文脈は常に付いて回ります。その点で言うと、ロシアは「歴史の教訓」を忘れてしまったがゆえに、ウクライナに侵攻したのかもしれません。