産業人の未来
ダイヤモンド社刊 1600円(税別)

 「われわれが平和を手にする日は、旅を終える日でも旅を始める日でもない。それは馬を替える日にすぎない」(『産業人の未来』)

 ドラッカーがこれを書いたのが、1941年、米国に移り住んで4年目、チャーチルの激賞を得た処女作『経済人の終わり』刊行の2年後だった。

 結局は、米国もこの戦争(第2次世界大戦)に参戦するだろう。そして勝つだろう。しかし、政府統制的、国家総動員的なことはいっさい行なってはならない、勝つための一時のこととの触れ込みで始めても、必ず永続してしまうから。おまけに産業力がものをいう戦争においては、自由で創造的な産業活動のほうが優れているに決まっているではないか――という趣旨だ。

 もちろん、当時の日本は国家総動員法をはじめとする統制的な施策のオンパレード。戦後何十年もたっても、あの頃の錯乱から抜け出るのに四苦八苦というありさまである

 当時は全体主義という特殊な時代だった、と片付けられるだろうか。

 今また、景気回復のためとして、行なってはならないことをずいぶんと行なっているのではないだろうか。景気回復の日は、新しい旅を始める日ではないというのに。

 「機能する自由な産業社会を実現するうえで最も重要でありながら最もむずかしく思われることは、明日の社会と政治にとって、自由こそが決定的に重要な問題であることを認識することである」(『産業人の未来』)