変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。同書から抜粋している本連載の書下ろし特別編をお届けする。

「なぜ日本人は社会に出ると学ぶことをやめるのか?」海外の経営者が疑問を抱く理由Photo: Adobe Stock

 

常に学び続けるのが真のプロフェッショナル

 日本を含めた多くの国では、定年という考え方があります。

 しかし、人生100年時代においては、60代で引退することの必然性は薄いように思います。そもそも定年という考え方は、特定の組織に所属することを前提としています。自らプロジェクトを興して世界中の人たちと連携していくこれからの世界では、定年という考え方自体を捨てるべきです

 現代は健康寿命も延びていますし、基本的な計算能力のピークは50歳で、語彙力に至っては67歳がピークだという研究結果もあります。このような時代においては、生涯現役を基本に考えるべきではないでしょうか。

 もし個人の判断で引退したければ、それが40歳であろうと引退すればいいでしょう。

 しかし、一度引退したら、例えばかつてのように会社の顧問として影響力を持ち続けることはできなくなります。また、トヨタ自動車で優秀なエンジニアだったとしても、グレイヘアコンサルタント(熟練のシニアコンサルタント)として雇ってくれる会社は少なくなっていくでしょう。

 リスキリング(学び直し)できないプロフェッショナルは、すぐに淘汰されます

勉強していない大人は、プロフェッショナルではない

 海外では、社会人経験を積んだ後に修士号や博士号を取得したり、ビジネススクールのエグゼクティブプログラムに通ったりするのが一般的です。

 ビジネススクールでは教授から学ぶだけでなく、世界中から集まった投資銀行出身者や起業家、エンジニアなどの全く異なる背景を持つ学生同士が、お互いから学ぶことにも意義があります。

 一方で、高学歴社会ではなく、合格歴社会とも言われる日本では、社会人になってからも学習を続けるリカレント教育という考え方が浸透していません。いくつになっても東大出身であることや、マッキンゼー出身であることを自慢している人すらいます。

 言うまでもありませんが、有名大学や有名企業に合格することはゴールではなく、そこでどのような結果を出し、その結果としてどのようなスキルを身につけているかが重要です。

スキルは、アートとサイエンス、クラフトに分かれる

 では、人生100年時代を生涯現役で貫くには、どのようなスキルを身につけるべきなのでしょうか。

 カナダのマギル大学デソーテル経営大学院のヘンリー・ミンツバーグ教授は、著書の『Managers Not MBAs: A Hard Look at the Soft Practice of Managing and Management Development(2005)』の中で、ビジネスにおけるスキルをアート、サイエンスとクラフトの3つに分けて解説しています。

 アートとは言葉のとおりセンスのようなもので、直感や感覚などを指します。動物的な嗅覚で新たなビジネスチャンスを見出せる人は、アート面に長けていると言えるのではないでしょうか。ビジネススクールの科目で言うと戦略やリーダーシップなどは、アートの要素が強いと考えられています。

 サイエンスは再現性のあるもので、「Aを入力したらBになる」という方程式に落とし込めるものになります。会計や財務などの科目は、サイエンスの要素が強いのではないでしょうか。

 クラフトは実務で身につけられるものが多く、業界や会社に固有のものも含まれます。強いて当てはめると、オペレーションのような実務寄りの科目がクラフトに当たります。

 どのスキルが特に優れているということはなく、ビジネスを成功させるためにはアートもサイエンスもクラフトも全て必要になります。いずれかに偏重するのではなく、全ての要素を意識して身につける必要があるということです。

 今話題のChat GPTを使ってみた人も多いのではないかと思いますが、人工知能によってサイエンスやクラフトのみならず、アートの一部も代替されていると言っても過言ではないでしょう。アジャイル仕事術を身につけて、世界中の人たちに加えて、人工知能と連携する方法を身につけましょう。

 『アジャイル仕事術』では、働き方のバージョンアップをするための技術をたくさん紹介しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。