「人間の悩みはすべて対人関係の悩みである」と断言し、その悩みに明確な答えを与えてくれる「アドラー心理学」。日本では無名に近かったこの心理学を分かりやすく解説し、世界累計1000万部超のベストセラーとなっているのが『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』の“勇気シリーズ”です。
この連載では、『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』の著者である岸見一郎氏と古賀史健氏が、アドラー心理学の教えに基づいて、皆さんから寄せられたさまざまな悩みにお答えします。
今回は、パートナーとの相互理解の壁に悩む方からのご相談。岸見氏と古賀氏がアドラー心理学流「夫婦円満の秘訣」をズバリ回答します。(構成/水沢環)

『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』の著者があなたの悩みに答えますイラスト:羽賀翔一

今回のご相談

【質問①】妻の激情的な性格に困っています。私はイラッとするときもありますが、心の中で妻を見下して平穏を保ち、基本的に無反応を通しています。まだ幼い子どもに、妻の激しい性格がうつってしまわないか心配です。アドバイスをお願いします。(30代・男性)

【質問②】夫に対して「こうしてくれたらいいのに」という思いが強くあり、今まですごく介入をしてしまっていました。相手も自分も楽になるには、どうしたら良いのでしょうか?(40代・女性)

「アドラー心理学流」回答

古賀史健 お一人めの質問者さんが「妻がガミガミうるさい」と感じている一方で、きっと奥さまは「うちの夫はなにも言わない」という不満を抱えていらっしゃるでしょう。なので僕には、これはこれで良い組み合わせのような気もしてしまいます(笑)。

 僕はパートナーって、基本的に凸凹の関係だと思うんですよね。自分の出っ張った部分、相手の凹んだ部分、それが上手い具合に重なることによって、パートナーという一つの単位ができあがっている。だから、自分の長所と相手の短所、相手の長所と自分の短所が上手くかみ合っている状態が一番良いパートナーシップの在り方だと思うんです。

 とはいえ、質問者さんのように相手の短所のほうに目が行くのもよく分かります。でも、そういう相手の目立つ部分(=凸の部分)に対しては、それに合う自分の凹の部分があるんだろうなって視点を持つことが大切ではないでしょうか。相手の短所は自分の特徴の裏返しなんです。自分と相手、お互いの凸凹のバランスをもう少し意識されると、関係も良好になる気がしました。

 お二人めの方は、介入に関するご質問ですね。僕もよく、会社で部下に指導をするときに介入の難しさを感じます。アドラー心理学をずっと学んできた人間として、その際に僕が気を付けているのは「正解を押し付けようとしない」ことです。

 正解は人の数だけあるものです。だから、僕にとっての正解が相手にとっての正解とは限らないし、相手は相手自身の正解を見つけていかないといけない。もちろん相手が見つけた正解が、僕の正解よりずっと優れている場合もあるでしょう。「一緒に正解を探していこう」と協力はするけれども、一方的な正解を押し付けない。このように自分の正解を絶対だと思わないという意識付けを自分に課しています。

 この質問者さんのように、介入したくなってしまう気持ちの背後には「正解」とか「正義」とか、ものすごく堅いものがある気がします。なので、そこをもっとふわっと柔らかくして「お互いにとって良い方向を一緒に探していこうね」っていう態度になれたらいいんじゃないかなと思います。

岸見一郎 いまの古賀さんの話に関連づけて言うと、「自分が正しいと思っていると権力争いになる」というのがアドラー心理学の考え方です。権力争いとは、平たく言うとケンカです。たとえ感情的にならなくても、「自分は間違っていない」と思っていると権力争いになっています。ですから、まずは自分の正しさが唯一絶対ではないということに気づかなければなりません。

 一つめの質問に戻りましょう。この質問者さんのような無反応は良くないですね。無反応という態度は、相手からするとふてぶてしく感じるものです。そのような態度では問題は解決しません。「こうしてほしい」と要望を言葉にしなければ相手には伝わらないのです。

 お二人の関係を良くするための出発点は、まずなにが不満なのかをしっかり伝えることだと思います。お互いが冷静なときに、「最近の二人の関係性について一度話し合いたい」と言って、「あなたに怒鳴られると僕は辛い」「今の言い方で傷ついた」と伝えてみてください。自分の気持ちを、はっきりと言葉で伝えることは非常に重要です。

 それから、子どもさんに奥さんの性格がうつることを心配されていますが、心配ありません。親が反面教師になるからです。アドラーは「こういう環境で育ったからこうなる」といった決定論的な考え方はしません。子どもさんは「お母さんのようなやり方は嫌だな」と自覚されたら、「自分はこう言わないでおこう」と自ら決心できます。ですから、子どもさんの心配はしなくていいと思います。

(次回もお楽しみに)