アドラー心理学の入門書『嫌われる勇気』がついに200万部を突破しました! そこで読者の皆様への感謝の気持ちを込めて、いま全国9か所の書店で著者・岸見一郎氏と古賀史健氏の講演会ツアーを実施しています。このイベントの最大の特徴は、講演だけではなく、来場者の皆様から出されたご質問・ご相談に著者二人が回答する時間をたっぷり取っていることです。
仕事に関する悩み、子育てに関する悩み、夫婦関係や親子関係に関する悩み、さらには恋愛を含むさまざまな対人関係の悩みに、アドラーの思想を踏まえて丁寧かつ真摯に二人がお答えしています。
そこで、実際の質疑応答のなかから、多くの方の参考になると思われるものを厳選し、これから数回にわたって紹介して参ります。今回は、アドラー心理学を受け入れてくれない周囲の人との関わり方、夫婦における課題の分離についての悩みにお答えします。

周りの人がアドラー心理学を理解してくれません

【質問】
『嫌われる勇気』をとても興味深く読ませて頂きました。ぜひアドラー心理学を生かして日々の生活や考え方も変えたいと思っています。ただ、周囲の人がアドラー心理学について理解や共感をしてくれないことも多いのです。そういうときに自分の考えを押し通すべきか、相手の考えを受け入れるべきか悩んでしまいます。アドバイスをお願いします。(40代、男性、会社員)

【回答】
岸見一郎
:アドラー心理学を学んだばかりの人がすぐに実践できるかというと、それほど簡単ではありません。ただ、アドラーの思想は極めてシンプルなので、自分なりの理解や実践方法が正しいと思ってしまう方は多いようです。
 たとえば、よく受けるのは「私は子どもに対してちゃんと勇気づけをしているんです。でも夫が伝統的な教育観に基づいて子どもを叱りつけてしまいます。どうしたらよいでしょうか?」といった相談です。
 答えはシンプルです。母親と夫と子どもの三角形を考えてみてください。母親が関われるのは、自分と夫、自分と子どもの辺だけです。残りのもう一辺である夫と子どもの部分には母親は関われません。つまり夫が子どもにどう対応するか、母親が問題にする必要はなく、そもそもできないのです。
 母親ができることは、、けっして叱らない・褒めない・勇気づける、という子どもへの接し方を実践することのみです。その対応を続けていれば、必ずや子どもは対等に自分と接してくれる母親に信頼を寄せます。すると母子の関係はたちまち良好になる。それを見た夫が「どうしたの?」と尋ねてきたら是非『嫌われる勇気』を読んでもらってください(笑)。
 大切なのは、自分がモデルになるしかないということです。良い対人関係が築けている実例を示せれば、多くの人が関心を持ってくれるはずです。まずは自分ができるところから始めることを心がけてください。

夫の課題に土足で踏み込む妻に、アドラー心理学はいかに対応するか?会場からの質問に答える古賀史健氏(右)と岸見一郎氏。

古賀史健:僕がアドラー心理学を知ったきっかけは、岸見先生が書かれた『アドラー心理学入門』という本を1999年に読んだことです。それ以来、僕はかなり先生の本の売上に貢献してきたと思います(笑)。何十冊も買い込んで、たくさんの人に配りましたから。「すばらしい本だから是非!」と仲のよい編集者、友人、家族にも読んでもらいました。でも、いま振り返るとそのやり方はちょっと違っていたかなと思うところもあります。
 アドラー心理学というのは、「人間理解のための心理学」だと僕はとらえています。自分と他者を理解するための心理学、という意味です。そうであれば、自分の考えを押しつけるような「僕はこう考えているんだから、君もそう思ってくれよ」というアプローチはちょっと違うと思うんですよね。
 たとえば外国人と友だちになりたいとき、日本語を覚えて欲しいといって相手に日本語のテキストを渡すのって無理筋ですよね。仮に相手がアメリカ人なら、まずは自分が英語を学んで相手の語っていることを理解する。そこから始めるのが一番よいアプローチでしょう。
 僕が岸見先生の本を多くの人に配って、「いいからこれを読め」「お前もこれを理解してくれ」と言っていたのは、ひたすら日本語のテキストを配っていたようなものだなぁと、いまならわかるんです。そうじゃなく、アドラー心理学の考え方を活かして、相手がいまどう考えていて、なぜこういう行動をするのか理解することが、あのとき自分がとるべきアプローチだったんだなと質問を伺いながら改めて反省しました(笑)。
 自分と他者の考え方や感じ方が違うのは当然です。周囲の方がアドラー心理学を受け入れてくれないのであれば、押しつけるのではなく、まずはなぜ受け入れてくれないのかを考え、理解につとめる。そこから始めるのが一番よいコミュニケーションだろうと思います。