哲人と青年、インドネシアに現る──。インドネシアの出版社が主催するイベント「Ruang Tengah Festival」に『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』の著者である岸見一郎氏と古賀史健氏がオンラインで登壇しました。毎年開催されるこのイベントは、インドネシア全土から作家、読者、出版社が集う文学祭です。2022年のテーマは「#Reading Asia」ということで、アジア各国から多くの作家やジャーナリストが招かれ、さまざまなトークセッションが開かれました。
岸見氏と古賀氏のセッションは、参加者からの質問におふたりがその場で答えていくというもの。著者と直接話せる貴重な機会に、会場や配信視聴に集まった読者からは数多くの質問が寄せられました。日本とは言語も文化もまったく異なる人たちは『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』を読んで何を感じ、著者にどんな疑問をぶつけたのか? 白熱したインドネシア読者との「対話」の第2回は、「勇気」をもつことの大切さについて。(前回記事はこちら)(構成/水沢環)

アドラー心理学を解説した世界的ベストセラー『嫌われる勇気』の著者がインドネシアのイベントに登壇岸見一郎氏(上段右)のインドネシア語の挨拶で盛り上がる司会役のAchaさん。下段は古賀史健氏。

課題を分離することの大切さ

司会 ここからは視聴者のみなさんの質問に直接お答えいただきましょう。まずはZoomで参加しているジャカルタのAさんからどうぞ。

Aさん はじめまして、よろしくお願いします。私は周りからの期待を苦しく感じることがあります。そうした期待とは、どのように向き合えばよいでしょうか?

世界的ベストセラー『嫌われる勇気』の著者がインドネシアのイベントに登壇岸見一郎(きしみ・いちろう)
哲学者
1956年京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。アドラー心理学の新しい古典となった『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』執筆後は、国内外で多くの“青年”に対して精力的に講演・カウンセリング活動を行う。訳書にアドラーの『人生の意味の心理学』『個人心理学講義』、著書に『アドラー心理学入門』『幸福の哲学』などがある。

岸見一郎(以下、岸見) たとえば、親が子どもに「こんな人生を生きてほしい」という期待を持っているとします。ところが子どもには自分のやりたいことがある。そういうときはたとえ親の期待を裏切ることになったとしても、自分の人生を生きていいと思いますし、そうするべきだと考えます。自分の人生を生きることが何よりも重要ですから。

古賀史健(以下、古賀) いま岸見先生がおっしゃった通りですね。アドラー心理学には「課題の分離」という考え方があります。他者の課題と自分の課題を切り離して、自分自身の課題をどう解決していくかを考える。そんなマネジメント方法がアドラー心理学では詳しく説明されています。
 ですから、たとえば自分に何かを期待する人がいても、それは期待している人の課題なんですよね。そんな風に、これは私の課題なのか、それともあの人の課題なのか、冷静に見極める目が大事なんだと思います。

勇気とは、行動に踏み出すこと

司会 続いてはブカシから参加しているBさんからの質問です。Bさん、どうぞ。

Bさん よろしくお願いします。不安や恐怖といったネガティブな感情は、人生に大きな影響を与えると思います。そういう頭の中にある不安を取り除いて、勇敢な人になるためにはどうすればいいでしょうか?

岸見 まず、不安は「自分がつくりだしている」と気づくことが必要です。目の前に達成困難な課題があるから不安になっているのではなくて、課題に直面する勇気が持てないので、不安という感情をつくりだして、課題から逃げようとしているのです。
 具体的な対策をひとつ挙げるとすれば、「○○したい。でも」という言葉が出てきそうなときに、その「でも」を飲み込んでしまうこと。とにかく課題に挑戦すれば結果が出ます。結果が出る前から恐れることなく課題に挑戦しようと思えることが、勇気を持つということです。

古賀 人は不安を抱えているとき、最終的に「何もしない」という選択を選ぶことが多いんですね。何かを行動に起こすと、悪いことが起きる気がするから。
 ですから、不安に襲われたり人生で迷ったりしたときには、まず「何もしない」という選択肢を消すのが大切です。たとえば本を読むのでもいいし、こういうイベントに参加するのでもいい。何でもいいからまずは何かを行動に起こしてみる。その上で、これから何をするのか、あるいは自分に何ができるのか、ということだけを考える。そうやって行動に踏み出すことが、勇気なんだと思います。

アドラー心理学を解説した世界的ベストセラー『嫌われる勇気』の著者古賀史健(こが・ふみたけ)
ライター/編集者
1973年福岡生まれ。株式会社バトンズ代表。これまでに80冊以上の書籍で構成・ライティングを担当し、数多くのベストセラーを手掛ける。20代の終わりに『アドラー心理学入門』(岸見一郎著)に大きな感銘を受け、10年越しで『嫌われる勇気』および『幸せになる勇気』の「勇気の二部作」を岸見氏と共著で刊行。単著に『20歳の自分に受けさせたい文章講義』『取材・執筆・推敲』などがある。

自分の船をつくり、自分だけの航海へ出る勇気

司会 続いての質問です。Zoom参加のCさんから。

Cさん バンドン市のCです。私にはやりたいことがあるのですが、家族からは「それはダメだ。こっちの仕事をやったほうがいい」と言われていて。家族の言うことを聞くか、別の一歩を踏み出すかどうかで悩んでいます。そんな家族がいる人はどうすればいいでしょうか?

古賀 家族をひとつの船だと考えてほしいと思います。最初はみんな「家族」という船に生まれ、その船に乗って旅をします。ですが、誰にでも、どこかの段階で自分の船に乗り換えなくてはいけないときがきます。
 いま、家族からの声に苦しんでいるということは、家族と衝突しているのではなく「自分の船をつくる」という困難に向き合っている時期なんだと考えましょう。自分の船をつくり、自分だけの航海に出る勇気を持ってほしいと思います。

岸見 親は子どものことが心配なのです。ですから、まずは「私のことを心配してくれてありがとう」と感謝を伝えてください。先ほど「自分自身の人生を生きていい」と言いましたが、親を傷つけていいわけではないし、親の反対を押し切って何をしてもいいわけではありません。
 一方で、親の人生と自分の人生は区別する必要があります。喧嘩をするのではなく、親の気持ちをきちんと受け止めた上で、「でも私は私の人生を生きます」という宣言をぜひしてほしいと思います。

(次回に続く)