「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

【名医が教える】なぜ一晩寝て起きたら、体が元気になるのか?Photo: Adobe Stock

糖質とケトン体の関係は、太陽と月の関係

サーカディアンリズム(概日リズム)」とは、太陽が出ているときは「活動モード」の交感神経が優位になり、日が沈むのに合わせ、今度は「休息モード」の副交感神経が優位になるという、人間の体内に備わったメカニズムのことです。

 このメカニズムは、長く人類が日の出とともに狩猟に出かけ、日没時には暖をとって休んでいたことで備わったと言われます。

 人は陽の光を目の網膜に感じると、脳の松果体が反応し、睡眠を誘導するメラトニンの分泌を止め、夜間には睡眠を誘導する物質であるメラトニンを分泌すると言われています。

 では、なぜ寝て起きたら元気になるのでしょうか?

 私は医師だったため、若い頃は、よく病院で当直をすることがありました。

 当時は、今と違って私のいた医療現場では、平日に当直しても、そのまま夕方まで働いて自宅に帰っていました。週末の当直なら、朝8時に家に帰って改めてゆっくり眠ろうとするのですが、寝た気がしないし、眠りは浅くなり、体が回復しませんでした。

 一体、体の中で何が起こっているのでしょうか?

サーカディアンリズムを整え、
体を回復させるケトン体

 人は、交感神経が優位に動く日中の活動モードの際には、糖質を主なエネルギー源にしています。

 一方、夕方になり活動量が徐々に減って副交感神経が優位の休息モードになると、体内でケトン体が生成され、それが血流に乗って脳や内臓や筋肉などに送られます。

 ケトン体には、抗炎症効果があります。ケトン体は、日中の活動を経て傷を負った細胞や組織を修復し、かつ細胞内のミトコンドリアに入ってエネルギー源となり、体の疲労を回復します。

 また、神経の興奮を抑えて眠りを深くして、次の日の朝に向けて、体の回復を促すのです。最新の研究ではケトン体が時計遺伝子を制御し、サーカディアンリズムを整えることもわかっています。ですから、寝て起きたら元気になるのです。

 この糖質とケトン体の関係は、さながら太陽と月のようなものです(下図)。

【名医が教える】なぜ一晩寝て起きたら、体が元気になるのか?交感神経が優位な日中は糖質を主なエネルギー源にして活動し、副交感神経が優位な夜間にはケトン体で回復する。 イラスト:坂木浩子

 交感神経と副交感神経のスイッチが切り替わるのは、だいたい午前4~5時頃です。午前4~5時頃に血圧が上がり始め、だんだんアイドリングして体が温まってくることで、朝に目が覚めるのです。

ケトン体は、夕方から夜にかけて働く

 私たちの研究室では、ケトン食を実施するうえでの補助食品ケトンフォーミュラを、健康成人の男性に投与し、ケトン体の誘導作用とケトン体のサーカディアンリズムについて検討し、論文を発表しました。その結果が示したことは、ケトン体は夕方にかけて上昇し、夕方から夜にかけて働くということです。

 実験に参加した健康な成人男性に、1日糖質30gの食事と、MCTオイルを豊富に含むケトンフォーミュラを摂取してもらい、5日間継続したときの血中のケトン体の誘導効果を測定しました。朝起きたときは、睡眠中は長時間絶食していますので、当初、血中のケトン体が一番高くなると予想していましたが、結果は逆でした。

 夕食後に血中のケトン体はピークとなり、翌朝には、血中のケトン体は下がっていたのです。この結果は、夕食後に高くなったケトン体が、睡眠中に使われていることを示しています。これは何を意味しているのでしょうか。

 前回、私が若い時に当直明けに眠っても疲れが全く取れなかった話をしましたが、当直していると、しばしば午前3~4時頃に起こされて、対応することがあります。

 また、起こされるのではという気持ちがあるので、眠るのも自然と午前1~2時頃になります。この時間は本来なら、ケトン体を利用して深い睡眠に入り、体が回復する時間なのです。ケトン体の回復機能を利用できず、交感神経優位の時間に休んでも体は回復せず、寝た気もしなかったということになります。

 まさか、ケトン体の研究を進めて、若い時に疑問に思ったことが解明されるとは思いませんでしたが、これらの仕組みは健康を考えるうえで、とても重要になるのです。

萩原圭祐(はぎはら・けいすけ)
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授(常勤)、医学博士
1994年広島大学医学部医学科卒業、2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。1994年大阪大学医学部附属病院第三内科・関連病院で内科全般を研修。2000年大学院入学後より抗IL-6レセプター抗体の臨床開発および薬効の基礎解析を行う。2006年大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科助教、2011年漢方医学寄附講座准教授を経て2017年から現職。2022年京都大学教育学部特任教授兼任。現在は、先進医学と伝統医学を基にした新たな融合医学による少子超高齢社会の問題解決を目指している。
2013年より日本の基幹病院で初となる「がんケトン食療法」の臨床研究を進め、その成果を2020年に報告し国内外で反響。その方法が「癌における食事療法の開発」としてアメリカ・シンガポール・日本で特許取得。関連特許取得1件、関連特許出願6件。
日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)などの学会でがんケトン食療法の発表多数。日本内科学会総合内科専門医、内科指導医。日本リウマチ学会リウマチ指導医、日本東洋医学会漢方指導医。最新刊『
ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』がダイヤモンド社より2023年3月1日に発売になる。