プロがさりげなくやっている「シンプルなテクニック」

 話を戻しましょう。師匠方の漫談を見て「なぜ、自然と引き込まれるのか」を徹底的に分析して見つけたのが、「自分をプロデューサー目線で見る」ことでした。

 師匠方は舞台に上がって噺をはじめる前に、頭を下げたり、手を振ったりしながら時間にして1~2秒程度のあいだで会場全体を見渡します。

「どんなお客さんが入っているか」「どのくらい会場は温まっているか」などを確認してから、芸に移るようにしていました。

 のちに知ったことですが、トップクラスの師匠ともなると、客席だけではなく、舞台袖や出入口付近にいるスタッフの様子まで気になってしまうそうです。それは自分の噺をしているときも続くそうで、まさに会場全体を見渡したプロデューサー視点で会場を眺めながら芸を披露すると教えていただきました。

 もちろん、物理的に見ているわけではなく、気持ちの話として、「今はこういう雰囲気だから、自分がプロデューサーや主催者だったらこんな話をしてほしい」とか、「こんな雰囲気にしてほしい」ということを自分で自分に要求するということでしょう。

 実際、師匠方に、「漫談にはうまいへたがもちろんあるけれど、それ以上にお客さんの温度に合った噺をできるかどうかが何よりも大事」だと教えていただいたことがあります。

 まさに、プロデューサー目線で会場の様子を把握しているからこそ出てくる発言でしょう。どんなに能力が高くても、状況に合った能力の使い方ができなければ宝の持ち腐れです。状況に合わせた形で実力を発揮できるように「プロデューサー視点」を手に入れましょう。