2016年の発売以降、今でも多くの人に読まれ続けている『ありがとうの奇跡』。本書は、小林正観さんの40年間に及ぶ研究のなかで、いちばん伝えたかったことをまとめた「ベスト・メッセージ集」だ。あらゆる悩みを解決する「ありがとう」の秘訣が1冊にまとめられていて、読者からの大きな反響を呼んでいる。この連載では、本書のエッセンスの一部をお伝えしていく。

ありがとうの奇跡Photo: Adobe Stock

「大変なこと」を笑顔で受け止められるかが、人生のテーマ

 講演会が終わったあと、30歳くらいの男性に、最寄り駅まで車で送っていただいたことがあります。駅に向かう車中で、彼はこんな話をはじめました。

「じつは、3ヵ月前にも、正観さんの講演会に参加したことがあったのですが、そのときは自分の中で忸怩たる思いがあって、明るく振る舞うことができなかったんです」

 私が「なぜ、明るくなれなかったのですか?」と聞いたところ、「病気で人工透析をはじめたばかりだったので、暗澹たる気分になっていた」そうです。

「3ヵ月経った今でも、なかなか明るい気分になれない」という彼に対して、私は、こう言いました。

「すべての人が大変な問題を抱えています。けれど、その大変な問題を、いちいち口にしていないだけです」

 彼の車には、私以外にも、講演会の参加者が3人乗っていたのですが、その中に、にこやかで、穏やかで、落ち着いていて、あたたかな笑顔で、女優のような容姿をした女性がいました。

 私は、この人のことを詳しくは知りません。この人は、明るく、穏やかに、にこやかに過ごしているように見えます。

 でも、人相学を学んだ私から観ると、それだけではないような気がしたのです。そこで私は、「じゃあ、Aさん」と、私はその女性に話しかけました。

「私は、あなたとまだ、講演会の席で、5~6回しか会ったことがないので、あなたのことを詳しくは知りません。しかし、あなたの顔を観ると、単に明るく楽しいというだけではなく、ものすごく大変なものを抱えながら、それを笑顔で包み隠しているように思えます。何かを抱えていませんか?」

 それから10秒ほどの沈黙のあと、その女性は「ワーッ」と大きな声で泣き出したのです。

 沈着冷静で、感情の起伏がない穏やかに見えた女性が、まさか声を立てて泣くとは思わなかったので、車内のみんなが驚きました。

 私が「何を抱えているのですか?」と聞くと、彼女は、「私は3つの難病を持っていて、医師からは、そのうちのひとつが原因で、『10年後に手足が動かなくなるかもしれない』と宣告されています」と答えました。

 そして彼女は、運転している彼に向かって、こう言いました。

「人工透析で、自分が不幸だと思っているのでしょうが、もっと大変な人はいます」

 彼女は、死にたいほどの問題を3つも抱えていながら、それでも笑顔で生きてきたのです。

 人生を悲しんでいることは、まったく、おくびにも出していませんでした。

 1ヵ月ほど経って、彼がまた私の講演会に来ました。すると今度は、とても明るい顔をしていたのです。

 彼女から、「もっと大変な人がいる」と指摘されたことで、「自分だけが、苦しんでいるのではない。すべての人が大変な問題を抱えている。それを『大変だ』と言わないで、みんな笑顔で生きている」ということに気がついたようです。

「あなた」だけが、大変な思いをしているのではありません。みんな大変な思いをしています。

 だから、そのような問題を「大変だ。大変だ」と言わないこと。いちいち評価・論評したり、感想を言わないこと。

 それを笑顔で受け止めながら(感謝しながら)、生きていけるかどうかが、「人生のテーマ」なのです。