写真:GAFAMのロゴ「GAFAM」と総称される米国の超巨大IT企業5社のロゴ Photo:AFP=JIJI

日本の行政向けシステム基盤「ガバメントクラウド」で、「GAFAM」と呼ばれる米IT業界の超巨大企業のクラウドサービスが採用されたことは記憶に新しい。一方で日本は、経済安全保障などの観点から国産クラウドサービスを育成したいと考えているが、「GAFAM vs 国内クラウド産業」の対立構図が崩れず、根深い問題になっているという。政府関係者の証言を基にその現状を解き明かす。(イトモス研究所所長 小倉健一)

デジタル庁はGAFAMに
「乗っ取られた」のか?

 インターネットを通じてコンピューター処理やデータベース、ストレージ、サーバー、アプリケーションといった機能を提供するクラウドサービス。米IT大手のいわゆる「GAFAM(グーグル、アップル、メタ・プラットフォームズ〈旧フェイスブック〉、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト)」が、ここでも幅を利かせている。

 GAFAMのうち、アマゾンのクラウドサービスである「AWS=アマゾン・ウェブ・サービス」が世界で30%を超えるシェアを有している。続いてマイクロソフトの「アジュール」が20%強、グーグルの「GCP=グーグル・クラウド・プラットフォーム」が10%程度と、その技術力と事業規模で世界のクラウド市場を席巻している。

 日本でもデジタル庁が行政のシステム基盤「ガバメントクラウド」でAWSやGCPなどを採用し、米企業からの調達を決めた。なぜ日本企業ではないのかと国会でも議員からの質問が相次いだのは記憶に新しいところだ。

 日本経済新聞の記事『もがくデジタル庁4 「結局アマゾンか」デジタル庁、クラウドで米2社選定』(2022年4月21日)によれば、ガバメントクラウドの公募(21年10月)では、デジタル庁が求める要件の中に「独立したリージョンを複数のゾーンで構成」「HTTPのAPIが利用可能」など、AWS独特の言い回しが目立ち、「これじゃ米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のプレゼン資料そのものだ」と関係者が絶句したとあった。デジタル庁の公募はアマゾンに乗っ取られてしまったようだ。

 これを受けて、日本として日本企業のクラウドサービスの育成を支援すべきだという要望が政府に相次いで寄せられた。

 当時の経済産業相だった萩生田光一氏は記者会見で、デジタル庁が進めるデジタル化推進に疑問を呈する発言をするなど、「経済産業省はデジタル庁に半ば対抗する形で国内産業支援に注力している」という見方が産業界などで広がった。

 そして政府は国産クラウドの産業育成を経済安全保障上の重要な施策と位置付け、経産省主導で国内企業育成に関する支援に乗り出した。量子コンピューターを使った次世代のクラウドサービス開発を進める国内企業に最大2分の1、そうでない場合も3分の1の開発費用を支援する方針を決定。岸田政権が鳴り物入りで決めた経済安保の予算のうち200億円を投じる方向だ。新素材の開発や気象予測、政府の行政サービスや電力・ガスの社会インフラで使われるクラウドプログラムを、日本国内で開発、利用できる体制を整えたいとしている。

 日本の切り札とされるのが新しい独自サービスに「独自の暗号化技術」を設けることだ。日本独自の暗号化技術の開発によってセキュリティーを向上させて付加価値をつけ、産業育成につなげようという試みである。

 しかし、ここで国内外の関係企業の利害関係や思惑が錯綜している。政府関係者の証言を踏まえながら、国産クラウドサービスを育成したい日本とGAFAMが対立する構図を深掘りする。