国や自治体のITシステムをクラウド上で運営する「ガバメントクラウド」。業者選定の入札が始まり、最大手クラウドベンダー3社のAWS、マイクロソフト、米グーグルがしのぎを削る。寡占3社間での争いになるかと思いきや、国産ITベンダーたちもこの争いに割って入ろうとしている。業界ではいくつかの重要人事に憶測が渦巻く。特集『企業・ITベンダー・コンサル…DX狂騒曲 天国と地獄』(全14回)の#9では、過熱するガバメントクラウド争奪の前哨戦を追った。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
政府クラウド入札でマイクロソフトまさかの失注
複数の重要人事に業界で疑念が渦巻く
メダル争いに必ず食い込むとみられていた有力選手が、まさかの予選敗退――。2021年10月、IT業界関係者が一同驚愕するこんな事件が起こっていた。事件の舞台はオリンピックではなく、デジタル庁が進めるガバメント(政府)クラウド調達の入札現場である。
政府は、国や自治体のITシステムのDX(デジタルトランスフォーメーション)を目指して、これまでは自前保有(オンプレミス)で運用していたシステムの一部に、パブリッククラウドを採用することを決めた。クラウドとは、サーバーやストレージなどのハードウエア、その上のミドルウエアやOSなどの開発環境、アプリケーションやソフトウエアなどを、従来のように手元に自己保有で置くのではなく、インターネットの先に置き、身軽に利用できる仕組みのこと。その中でも、不特定多数のユーザーに対しサービスを提供するものをパブリッククラウドという。
前述の入札は「令和3年度地方公共団体による先行事業及びデジタル庁WEBサイト構築業務」。ガバメントクラウドの導入の第1弾として採用するクラウドサービスを選定するためのものだった。業界関係者が驚いたのは、当然入札に参戦し選定サービス事業者に食い込む、とみられていたマイクロソフトのまさかの「予選敗退」である。
いったい何が起こったのか。まずはパブリッククラウド大手3社の、それぞれの陣営の特徴を確認しておこう。
先駆者ともいえるのが、クラウド市場をつくった立役者でもあるAWS(アマゾンウェブサービス)だ。日本での事業開始は11年、約4割の市場シェアを持ち、国内の顧客は数十万を超える。クラウド上で提供されるサービスは200以上と、名実共にクラウドのトップ企業である。
その後ろをシェア30%のマイクロソフトAzureが追う。クラウドビジネス参入はAWSに遅れたが「国内の提携ITベンダーの数はAWSよりもはるかに多く、Azureを導入したい顧客のサポート体制は充実している。また、M&Aで傘下に収めたGitHubやリンクトインと連携したサービスも活用できる」(上原正太郎・日本マイクロソフト業務執行役員)。
グーグルクラウドは最後発で、15%程度のシェアとなっているが、データ分析やセキュリティー機能などで他社にない強みを持ち、じわじわとシェアを拡大している。
最強のAWS、そのAWSにこれまでのウィンドウズビジネスやグループM&Aで得た資産を武器に挑むマイクロソフト、とがった技術で玄人受けするグーグル、の三つどもえとなっている。
3社は当然のことながらガバメントクラウド入札に参加したとみられるが、対象サービスとして選定されたのはAWSとグーグルだけだった。デジタル庁は業者選定の理由を詳細には明かさないが、シェアや実績でAWSに肉薄し、当然、資格要件も満たしているとみられたマイクロソフトAzureのみが落選した「異変」は、クラウド業界内で衝撃をもって受け止められたのだ。
異変の裏には、ガバメントクラウド開始に伴い本格化した、熾烈な陣取り合戦が垣間見える。さらに、これまでクラウドに関しては蚊帳の外と思われてきた、NTTグループ、NEC、富士通などの国産ベンダーが、そこに参入をもくろんでいることも明らかになった。
いくつかの重要人事に対して業界では強い疑念が生まれている。そして、突如起こった政府内での経済安全保障の議論……。次ページからは政府系クラウドの不穏な舞台裏の詳細をお伝えする。