売上を減らしたら、利益が1億円アップした会社をご存じだろうか?
「いずみホールディングス」は、食品流通事業とB to Bマネープラットフォーム事業を展開する企業グループ。食品流通事業6社は、水産・畜産・農産商品を全国の飲食店、量販店、卸売市場に販売。また、B to Bマネープラットフォーム事業では「oneplat」というサービスを展開している。同社は近年、経営改革を進め、利益を1億円アップさせた。
その秘密は、ベストセラーとなっている、木下勝寿(北の達人コーポレーション社長)著『売上最小化、利益最大化の法則』と『時間最短化、成果最大化の法則』の掛け算にあったという。
『売上最小化』は「2021年 スタートアップ・ベンチャー業界人が選ぶビジネス書大賞」を受賞、『時間最短化』は、「がっちりマンデー!!」のツイッターで、「ニトリ」似鳥会長と「食べチョク」秋元代表が「2022年に読んだオススメ本3選」に同時選抜された本だ。
今回、その掛け算の秘密をいずみホールディングスの泉卓真代表が初めてメディアに語った。7回目は「ベストセラーの学びを社内に浸透させるコツ」について迫る。(構成・橋本淳司)

本を読む ビジネスマンPhoto: Adobe Stock

本を読むのではない、使うんだ!

――社内で『売上最小化、利益最大化の法則』、『時間最短化、成果最大化の法則』を徹底活用したということですが、「読み方のコツ」のようなものはありましたか?

最低2回は読んでください」と伝えました。

 その理由は、自分が2回読んでよかったからです。

 私自身、1回読んで理解したつもりになっていましたが、もう1回読むと別の気づきがありました。

 自分ごととして活用するために、目の前にある課題を意識しながら、2回、3回と読み込んでいきます。そうすると、使えるレベルまで理解を深めることができると思います。

 それにこの2冊を読んだとき、どちらも1回で理解ができるとは思いませんでした。

 2冊とも、さらっと見逃してしまいそうな大事なことが極めてわかりやすく書いてあるので、そこで「わかった」と思ってしまうと、絶対に使いこなせません。

 多くの人は、一読すると、「そりゃそうだよね」と思います。

 でも、「そりゃそうだよね」で終わっている人たちは、全員、木下社長に絶対勝てない。

 この本は絶対に甘く見ちゃいけない。相当深く理解しないと活用しきれないんです。

――「さらっと見逃してしまいそうな大事なこと」とは具体的にどんなことでしょうか?

 たとえば『売上最小化、利益最大化の法則』の158ページに、

顧客満足度は商品の品質に比例するが、一つだけ盲点がある。
それはお客様が『使い方を間違えている』場合だ

 とあります。

 これをどう受け取るかだと思います。

 書いてあることはわかるのですが、ここで要注意。

 わかったつもりになるのが一番怖い

「お客様が使い方を間違えないようにしよう」という話だけじゃないんです。

 事業を行っていくうえで、一人のお客様をいかに大切にするか、企業に対してのロイヤリティが高い顧客ほど、時間の経過とともに大きな利益をもたらすということです。

 これは1回読んだだけでは絶対にわからない。

 そういう気づきが随所に見られるから、ある意味、本当に恐ろしい本

 だからこそ、今でも読み返しています。

 社内で何かあるたびに、

「これをきっかけに、あの本のあの項目を全員で見直してほしい」

 と言っています。もう羅針盤のような存在ですね。

創業時から誰よりも知恵を使いこなす文化

――本によって知識を受け取ったとしても、それを活用できるかどうかは個人差があると思います。その点についてはどうお考えですか?

 私は手元資金数万円で事業をスタートしました。

 すると、たった1回ミスしただけで、明日からすぐに商売できなくなります。

 仮に3万円の元手で事業を始めたとします。

 3万円では鯛を20匹しか買えないとしたら、この20匹を売り損なったら資金がなくなり、他社へ就職するか、アルバイトをしなくてはなりません。

 そうなると、高品質の鯛をいかに安く仕入れ、それをお客様にどのように届けるべきかなど、お金がない以上、知恵や情緒を誰より使いこなさないと、売れる確率は上がりません。

 資金がある人は資金で勝負しますし、技術がある人は技術で勝負します。

 私にはどちらもなかった

 だからこそ、マーケティングやブランディングなど、あらゆる書籍などで得た武器を人の何倍も使いこなさないと太刀打ちできないと肝に銘じてやってきました。

 創業時から誰よりも知恵を使いこなす文化があったのは、私のキャリアのせいかもしれません。

 書籍については、良書の選球眼を磨くとともに、講演会で自ら話をしてお金をもらえるくらいのレベルまで理解しないと、会社に導入することは難しいと思っています。

本を“読む”を本を“活かす”に変える「L字の法則」

――どういう読み返し方をするのですか?

 1冊まるごともう1回読むのでしょうか?

 それとも「何章を読もう」「この項目を読もう」と決めて読むのですか?

 読み方は基本的に個人に任せていますが、当社には「L字の法則」という考え方があります。客単価をLの縦軸、客数をLの横軸と見ています。

 一般的な営業展開では客数を増やそうとします。

 まずはLの横軸を広げようとするわけです。

 ですが私たちは、客単価を大事にします。

 まずはLの縦軸を深掘りします。

 お客様の満足度を深め、発注数量、発注品目、発注回数を増やしてもらうことを大切にしてきました。

 本を読むときも「L字の法則」です。

 たくさん読むことより深く受け取ることが先です。

 だから深く理解したうえで項目数を増します。

 たった10ページを3時間かけて読んでいる人もいるかもしれません。それでいいのです。

 それができたら、『売上最小化、利益最大化の法則』で紹介されている、「GOOD&NEW」(3~5人のグループに分かれ、24時間以内に起きた「よかったこと(GOOD)」や「新しい発見(NEW)」を一人ずつ話して全員で共有し、拍手をする取り組み)などを使いながら、日常的に本で学んだ内容をミーティングなどで話します。

 これを続けていくうちに徐々に定着率が上がり、さらに成果は出やすくなると思います。

 当グループで年間1億円の利益改善に成功したのも、この2冊の本を読み捨てにせず、社員全員で徹底活用したからこそ。ぜひ読むだけでなく、活用してください。

ベストセラーの学びを1億円の利益アップに変えた「L字の法則」とは?
【泉卓真氏略歴】
株式会社いずみホールディングス 代表取締役社長。
複数の飲食チェーン店勤務を経て2004年に海産物専門卸のいずみを創業。その後、畜産物卸や農産物卸にも参入し、2012年にいずみホールディングスを設立。2019年、株式会社Oneplatを設立し、代表取締役社長に就任。SBIや三菱UFJ、政府系の官民ファンドなどから総額10億5000万円の投資を集め、銀行をはじめとした金融機関と提携し、日本初のスキームで構築された、BtoBマネープラットフォームを構築。

(本稿では『時間最短化、成果最大化の法則』と『売上最小化、利益最大化の法則』をフル活用し、大きな成果を上げた事例を紹介しています)