WBC優勝の盛り上げ方、間違えると野球人口が減る?
WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で侍ジャパンがアメリカを下して、14年ぶりに世界一の座を奪還した。
一夜明けてもその興奮は冷めやらぬ状況で、多くの人々が歓喜と熱狂に包まれる中で、一部からは「世界一効果」を期待する声もあがっている。
今回の優勝による経済効果は600億円とも試算されたので、コロナ不況で落ち込んだ国内景気も少しは上向くのではないか。また、「深刻な野球離れ」が進行していると言われる子どもたちの野球人口も増えていくのではないか、というわけだ。
ただ、そんな淡い希望を打ち砕くようで大変心苦しいのだが、今回の「世界一」でそのようなプラス効果が出る可能性は低いだろう。
2009年にWBCで世界一に輝いた後も、瞬間風速的な特需はあったが、日本経済が回復したということはない。今回も優勝パレードやセール等による特需はあるだろうが、中長期的に景気が上向くことなどありえない。
これは冷静に考えれば当然で、日本経済低迷の大きな要因のひとつに、日本だけが低賃金をキープして産業の新陳代謝を怠ってきた、という構造的な問題があるからだ。これは「ムード」や「元気」でどうにかなる話ではない。
また、プロ野球人気への影響も微妙だ。一般社団法人日本野球機構の公式戦入場者数を見ると、確かに世界一に輝いた2009年の入場者数は前年に比べて増えた。が、翌10年は09年よりも少なくなって12年まで右肩下がりだ。残念ながら「世界一」の効果はそれほど大きくないのだ。
「暗いニュースばかりの中で、久々の明るい話題で日本がいい雰囲気になった中で、重箱の隅をつつくようなことを言うんじゃない」とお叱りを受けるかもしれないが、このようなことをあえて指摘させていただいたのは、野球というスポーツのさらなる発展のためだ。
日本人の悪いクセのひとつに、スポーツでの勝利を、「国威発揚」とか「景気回復」という下心に結びつけてしまうというところがある。しかも、そういうセコいことをやっていると、そのスポーツ自体まで盛り下がってしまう場合もあるからだ。
つまり、今回のWBCの優勝に便乗して「世の中を元気に」「これを景気回復の起爆剤に」なんて叫んでいると、プロ野球の人気が上がるどころか、逆に盛り下がって子どもたちの「野球離れ」に拍車がかかってしまう恐れがあるのだ。