地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。ホモ・サピエンスの拡散に至るまで生命はしぶとく生き続けてきた。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』(王立協会科学図書賞[royal society science book prize 2022]受賞作)は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、西成活裕氏(東京大学教授)「とんでもないスケールの本が出た! 奇跡と感動の連続で、本当に「読み終わりたくない」と思わせる数少ない本だ。」、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者からの書評などが相次いでいる。著者ヘンリー・ジーが熊本大学で行った特別講義を連載でお届けする。(翻訳/竹内薫)

【科学雑誌「ネイチャー」編集者が語る】あやうく捏造された論文を掲載するところだった…Photo: Adobe Stock

「狂気のアイデア」は少ない

 ネイチャーでは、著者が許可すれば、他のジャーナルの編集者と相談して、そのジャーナルに興味を持つかどうかを確認することができます。

 今は、ネイチャーに論文を投稿したら、知らないうちに他のジャーナルに掲載されていた、ということはありません。研究者は選択ができるのです。そして、小さなハイパーリンクを押せば、何の問題もなく、すべてのファイルが他の編集者に渡ることを望むことができるのです。

 ほとんど例外なく、私はあなたの論文が、あなたが誰であれ、私たちの雑誌のどこかに掲載されることを望んでいます。

 なぜなら、95%の論文はどこかに掲載されるに値するからです。

 よく言われたものです。「本当にエキセントリックで狂気のアイデアが詰め込まれているんでしょうね?」

 でもそんな論文は、思ったほど多くはありません。

 ジャーナルとして、また編集者として論文が厳正に査読されるよう、最善を尽くしています。きれいな論文でなければなりませんが、中身がなければならない。ただきれいだからという理由で掲載することはありません。

捏造論文が残した傷跡

 私たちが出版するものはすべて、査読を受けています。完全に捏造されたデータに基づいた論文がネットを通過したこともあります。滅多にないことですが、編集部には深い傷跡が残りました。私たちは、このような事態をまったく好ましく思っていません。

 そういうことがあると、私たちはとても個人的に落ち込みます。

出版直前で捏造を見つける

 私にも同じようなことがありましたが、捏造された論文を、ぎりぎりで避けることができました。捏造を見つけたのは、実は原稿整理編集者(コピーエディター)で、出版直前に数値がおかしいと気づいたのです。

 すべての査読者が見逃し、私も見逃していました。このような論文は他にもあります。私たちは責任を感じていますし、非常に真剣に受け止めています。幸いなことに、不正行為は非常にまれです。一般に考えられているほど多くはなく、そして、ほとんどすべてが見破られています。

 多くの論文があり、多くの場合、誰もがアクセスできるわけではないカスタムコードや複雑な実験方法を使用しているため、再現性を確認することが難しくなっています。

 そこで、私たちは、再現可能な方法を奨励し、時には、再現可能な方法を知ることを義務付けることで、自分たちの役割を果たそうとしているのです。

※本原稿は、2022/9/2に熊本大学国際先端医学研究機構で開催された第19回「SCIENCE and ME」の著者講演を元に、再編集、記事化したものです。

協力:熊本大学国際先端医学研究機構(IRCMS)

【科学雑誌「ネイチャー」編集者が語る】あやうく捏造された論文を掲載するところだった…ヘンリー・ジー
「ネイチャー」シニアエディター
元カリフォルニア大学指導教授。一九六二年ロンドン生まれ。ケンブリッジ大学にて博士号取得。専門は古生物学および進化生物学。一九八七年より科学雑誌「ネイチャー」の編集に参加し、現在は生物学シニアエディター。ただし、仕事のスタイルは監督というより参加者の立場に近く、羽毛恐竜や最初期の魚類など多数の古生物学的発見に貢献している。テレビやラジオなどに専門家として登場、BBC World Science Serviceという番組も制作。このたび『超圧縮 地球生物全史』(ダイヤモンド社)を発刊した。本書の原書“A(Very)Short History of Life on Earth”は優れた科学書に贈られる、王立協会科学図書賞(royal society science book prize 2022)を受賞した。
Photo by John Gilbey