企業による新卒社員の獲得競争が激しくなっている。しかし、本当に大切なのは「採用した人材の育成」だろう。そこで参考になるのが『メンタリング・マネジメント』(福島正伸著)だ。「メンタリング」とは、他者を本気にさせ、どんな困難にも挑戦する勇気を与える手法のことで、本書にはメンタリングによる人材育成の手法が書かれている。メインメッセージは「他人を変えたければ、自分を変えれば良い」自分自身が手本となり、部下や新人を支援することが最も大切なことなのだ。本連載では、本書から抜粋してその要旨をお伝えしていく。

メンタリング・マネジメントPhoto: Adobe Stock

出番をつくる
──自らの行動で相手をやる気にさせる

「出番をつくる」ということは、相手のために自らができることを探し出して、行動し続けるということです。

 その目的は、相手を成功させることではなく、感動させ、本気にさせることであり、それによって相手が自分の力で問題を解決することができるようになることです。

 自分の出番をつくる、といっても、それは相手の目の前にある障害を取り除くことではありません。

 そうではなく、相手が本気になってその障害を乗り越えていくことができるように、こちらの本気を示すことです。

 本気は伝播します。相手よりも本気になるからこそ、相手も本気になることができるのです。

「出番をつくる」ときのフレーズ例
・「私は、あなたのために○○をします」
・「昨日徹夜でここまでのことを、あなたのためにやってみました。よかったら活用してください」
・「私は今日から、あなたが成功するまで、毎日励ましの手紙を送り続けます」
・「千人の社員全員から、あなたのためにできることを書いてもらいました。この千人のファイルを見てください」

提供する
──資金や情報を差し出す
──人を紹介する

 提供とは、やる気にさせてから与えるものです。

 やる気にさせずに提供することは、逆効果になってしまう危険性があります。

 また、相手が困っていることを解決するために提供することは、相手をより依存させてしまうことになりかねません。

 気をつけなければならないことは、提供することによって相手を楽にしたり、動機づけをしたりしないようにすることです。

 その意味では、相手をやる気にさせてから提供することが大切です。

 提供することで、やる気のない人をやる気にさせるのではなく、「提供」することで、やる気のある人をよりやる気にさせるようにするのです。

 提供とは、目の前の壁にぶつかって進むことができない状況にある相手に、何かを提供することで乗り越えさせ、自信をつけさせて、より大きな壁に挑んでいくことができるようにすることです。

 ですから相手にとって、その場を乗り切るために必要最小限のものを提供するようにしなければなりません。壁を乗り越えていく「きっかけ」を与えることが提供なのです。

 もちろん励ましなどの精神的なものは、いくら提供してもかまいません。何より提供しなければならないのは、困難に挑んでいく勇気なのですから。

「提供する」ときのフレーズ例
・「どうぞこれを使ってください」
・「必要なものがあれば言ってください」(この場合、もちろん提供するものは最小限にとどめる)
・「行き詰まっているのは気持ちだけだと思います。方法はどんな時でも百万通りあるのですから」