人体の構造は、美しくてよくできている――。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう)アカウント10万人超のフォロワーを持つ著者が、人体の知識、医学の偉人の物語、ウイルスや細菌の発見やワクチン開発のエピソード、現代医療にまつわる意外な常識などを紹介し、人体の面白さ、医学の奥深さを伝える『すばらしい人体』。坂井建雄氏(解剖学者、順天堂大学教授)「まだまだ人体は謎だらけである。本書は、人体と医学についてのさまざまな知見について、魅力的な話題を提供しながら読者を奥深い世界へと導く」と絶賛されている。今回は医学部をテーマにした人気漫画『Dr. Eggs』を連載している漫画家三田紀房氏との対談をお届けする(取材・構成/高松夕佳)。

結核、炭疽症、コレラなどの感染症の原因が「細菌」であることを突き止める…人類に最も貢献した医師とは?Photo: Adobe Stock

どこまでが卵なのか?

三田紀房(以下、三田):私の漫画のタイトルは『Dr. Eggs』。医師の卵ということです。ここで、どこまでが卵なのかという問題が出てきます。

 医学部で6年間学び、国家試験を通って医師免許を取得したら、それで1人前のお医者さんかといえばそうでもないと伺っています。

 また、現代の医学でわかっているのはごく一部で、実はまだわからないことだらけだとも聞きます。だとすると、いったいどこから1人前のドクターと言えるのか。卵と1人前の境界線が曖昧ですね。

結核、炭疽症、コレラなどの感染症の原因が「細菌」であることを突き止める…人類に最も貢献した医師とは?三田紀房(みた のりふさ)
1958年生まれ、岩手県北上市出身。明治大学政治経済学部卒業。 代表作に『ドラゴン桜』『インベスターZ』『エンゼルバンク』『クロカン』『砂の栄冠』など。『ドラゴン桜』で2005年第29回講談社漫画賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。 現在、「ヤングマガジン」にて『アルキメデスの大戦』、「グランドジャンプ」にて、『Dr.Eggs ドクターエッグス』を連載中。
Dr.Eggs公式アカウント
https://twitter.com/dreggs_mita

山本健人(以下、山本):難しいですよね。我々医師は結局、永遠に勉強し続けなくてはならない存在です。今もわからないことがたくさんあり、現在進行形で少しずつわかってきているのが医学の世界です。

 新たな情報にキャッチアップすべく、私たち医師は常に論文を読んだり学会発表したりしている。

 私自身は、医師になって8年目から4年間、博士号を取るために大学院に戻って医学研究をしました。この4年間は臨床から離れていたのですが、実はこれは医師として珍しいキャリアではありません。

 中には大学院を修了後に留学をして2,3年間研究を継続する人もいます。医師として臨床現場で長く経験を積んだ後に研究畑を経験するというのも、比較的ありふれたことなんです。

 そう考えると、医者というのは永遠に卵であるとも言える。

 医師免許を取ったとき、「ああ、やっと医者になれた」と感慨深かったのは覚えています。それ以後、人生で初めて「先生」と呼ばれるようになるので、そこである意味、殻を1枚破っているとは言える。

 でも研修医として医療現場に出た途端、自分の無力さを痛感し、「結局は、現場で学ばなければ使いものにならないんだ」と愕然とする。破らなきゃいけない殻は次々と出てくるのです。

 医学自体が新たな進歩を続けている過程であり、医者というのは生涯勉強が続く仕事だとつくづく思いますね。

三田:なるほど、医師としての道のりには終わりがないのですね。

Dr. Eggs』主人公の円千森(マドカ チモリ)くんは、医学の道に半歩踏み出したに過ぎない段階で、一生卵の状態で終わるのかどうかは、まだわかりません。

 今後、卵の彼がどのように育っていくのか、作る我々がしっかり見守っていきたいと思います。

細菌と感染症

山本:ばらしい人体』の3章「大発見の医学史」では、そうした医学の進歩を支えてきた様々な学者たちも紹介しています。中でも私が好きなのは、ノーベル賞も受賞したドイツの細菌学者ロベルト・コッホです。

結核、炭疽症、コレラなどの感染症の原因が「細菌」であることを突き止める…人類に最も貢献した医師とは?山本健人(やまもと・たけひと)
2010年、京都大学医学部卒業。博士(医学) 外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。運営する医療情報サイト「外科医の視点」は開設3年で1000万ページビューを超える。Yahoo!ニュース個人、時事メディカルなどのウェブメディアで定期連載。Twitter(外科医けいゆう)アカウント、フォロワー10万人超。著書に17万部突破のベストセラー『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)、『医者が教える正しい病院のかかり方』『がんと癌は違います~知っているようで知らない医学の言葉55』(以上、幻冬舎)、『医者と病院をうまく使い倒す34の心得』(KADOKAWA)、『もったいない患者対応』(じほう)ほか多数。 Twitterアカウント https://twitter.com/keiyou30
公式サイト https://keiyouwhite.com

 人類の歴史とは、感染症との闘いの歴史でもあると言えるほど、これまで多くの方が感染症によって亡くなってきました。にもかかわらず、人と人との間で流行する感染症の原因が何なのか、自分たちが何と戦っているのかを、つい最近まで誰も知らなかった。

 それが細菌のように目に見えない微生物であることを明らかにしたのが、コッホです。

 コッホは19世紀後半に、結核や炭疽症、コレラなどの感染症の原因が細菌であることを突き止めました。

 そのことによって、原因である細菌を殺せば病気が治せるのではないか、という発想が生まれ、20世紀に抗生物質が誕生します。

 医学の歴史から見れば、ごく最近のことです。

 こうして感染症の大部分を克服した人類は急激に寿命を伸ばし、多くの国で感染症は死因の第1位ではなくなりました。

 その意味で、コッホは人類に最も貢献した医師の一人だと言っても過言ではないでしょう。

 コッホは医学者であると同時に臨床医でもありました。日々の診療の合間に顕微鏡で実験を繰り返していたという根気強さにも憧れます。 

レントゲンの話に感動

三田:僕は同級生の講演で聞いた、ドイツの物理学者、ヴィルヘルム・レントゲンの話に胸が熱くなりましたね。レントゲンは、人体の内側を開腹することなく確認できるX線を発見し、レントゲンを生み出した人です。

 放電管を使った実験の最中に、未知の現象を発見したレントゲンは、放電管から目に見えない光線のようなものが出ているのではないかと考えます。

 その後、様々な実験を繰り返す中で、この光線が透過するものと透過しないものがあること、写真乾板を置くと写真撮影ができることを発見したのです。

 彼をノーベル物理学賞に導いたこの発見は、身体の中を外から見ることができないかと考えたことに端を発しています。身体の中を外から見ようと思った人がいたかどうかで、人類の歴史は相当違ってくる。

結核、炭疽症、コレラなどの感染症の原因が「細菌」であることを突き止める…人類に最も貢献した医師とは?Dr.Eggs』三田紀房著(集英社)

 先生がおっしゃったコッホもそうだし、レントゲンも同じです。

 最初に自分の中に湧いた「あれ、これって……?」という疑問を追究し、自ら解決しようと試行錯誤し、プロセスを生み出した人って、すごく偉いと思うんです。

 漫画家としては、読者が何に関心があり、どこにどう反応するかを常にリサーチし、作品の中で少しずつ出しながら反応を見ているのですが、医学については、ほとんどの読者が専門知識を持っていないことがわかってきました。

 医学を語る上で、やはり過去の医学者の話は現在の医療に大いにつながるので、今後は1つひとつ丁寧に紹介するような場面も出てくるかもしれません。