将棋のファン層にも
大きな変化
藤井竜王が登場してから、将棋のファン層にも大きな変化が表れたという。
「私が作品のために取材を始めた頃は、タイトル戦の大盤解説会に訪れる人のほとんどは男性で高齢の方が多かった印象です。今は幅広い年代の方がいらっしゃいますし、特に女性の将棋ファンが増えていて、観戦者の層はガラリと変わりました」
地方のタイトル戦で早々に決着がついた場合、予定していた会場を活用して将棋イベントが開催されることもある。コロナの影響が落ち着いてから、こうしたイベントに訪れる人も増えてきたという。
また、藤井竜王が監修した将棋のゲームと『りゅうおうのおしごと!』のゲームの発売日が近々だった、という偶然がネット上で話題になった。「ちょっとした偶然が話題に上るほど、将棋を身近に楽しむ方が増えてきたと感じている」と白鳥氏は語る。
「藤井先生の活躍を見て将棋に興味を持った人には、新聞の観戦記を読む、プロ棋士のYouTubeチャンネルを見る、将棋のゲームで遊ぶなど、将棋を楽しむ豊富なコンテンツの中から自分に合った楽しみ方を見つけていただきたいです」
白鳥氏は、『将棋連盟ライブ』というアプリや『ABEMA』の動画配信で将棋観戦を楽しんでいるそうだ。「プロの先生が解説してくれたり、AIが数値を出して局面の優劣を示してくれる。初めて将棋を観戦する人でも指し手の意図を理解できる仕組みが備わっていてオススメ」だという。
もちろん、現実の将棋だけではなく将棋のフィクションを入り口に、将棋への興味を深めていく人もいるだろう。白鳥氏によると、『りゅうおうのおしごと!』のアニメを見た台湾のファンが、国際将棋大会で優勝して藤井竜王と対局した、と報告してくれたそうだ。
「『りゅうおうのおしごと!』は、戦法や制度などかなりの部分で現実の将棋界をモチーフにしているため、『このキャラのモデルになった先生を応援するようになりました』といったお手紙をいただくこともあります。一将棋ファンとして、将棋に興味を持つ仲間が増えることはうれしい限りです」
ただ、藤井竜王があまりにも現実離れした存在になりつつあるため、将棋を題材にしたフィクションは軒並み苦戦しているという。
「ライトノベルでは荒唐無稽な設定を読者に楽しんでもらうといった側面もありますが、藤井先生の軌跡はフィクションで想定するラインを軽々と超えている。『誰にも到達できないだろう』と考えられていた記録を次々に打ち破っているので、今の将棋界はフィクションより現実のほうが遙かに荒唐無稽で面白くなってしまっているのです」
“想像を超える”藤井竜王の強さは、将棋に詳しくなればなるほど実感できる。初心者向けの将棋コンテンツを活用して将棋の面白さにハマる絶好のチャンスは、現実と虚構がしのぎを削る今日なのかもしれない。
白鳥士郎:GA文庫から『らじかるエレメンツ』でデビュー。代表作に『りゅうおうのおしごと!』『のうりん』シリーズがある。将棋の観戦記者を務めることもあり、2018年4月の「第3期叡王戦決勝七番勝負第1局 金井恒太―高見泰地戦」の観戦記(ニコニコニュース)で、2019年に第31回将棋ペンクラブ大賞観戦記部門大賞を受賞した。